アメリカ委員会 企画部会(部会長 本田敬吉氏)/3月2日
米国経済は昨年後半から減速傾向を強めている。そこで、財務省の伊藤隆敏副財務官を招き、米国経済の行方や新政権の対日経済政策について説明をきくとともに意見交換した。
米国経済の回復に関して、現在、V字、U字、L字型の3つの仮設がある。
V字型仮説では、足元の0〜1%成長が6月位まで続いた後、今年後半には2.5〜3%成長に戻り、来年以降は3.5〜4%成長が続くとする。同仮説はここ3〜4年の高成長はニュー・エコノミーの結果であり、IT利用によってニュー・エコノミーの分野のみでなくオールド・エコノミーの分野でも生産性が向上したことや在庫サイクルが変化したことなどを指摘する。
これに対してU字型は、足元の0〜1%の成長率が今年いっぱい続き、回復に向かうのは来年以降とする。その根拠は、IT分野にはここ1〜2年で過剰投資があり、それが落ち着くまでは新規の設備投資は見込めないこと、また株式市場のハイテク株価バブルの崩壊により負の資産効果が働いて、消費が悪化することを指摘する。
最後のL字型は、今後、成長率は2〜2.5%で落ち着き、これ迄のようなレベルには戻らないとする。同仮説は、そもそもニュー・エコノミーは一度限りの現象であり、潜在成長率は今後、2.5%位に戻るだろうとする。
ワシントンでは、政権に近い人はU字型を唱えて減税を主張し、金融関係者の間では比較的V字型を信じる人が多い。
ブッシュ大統領の選挙公約である減税がどの程度実現されるかはブッシュ政権の議会における基盤の強さにかかっている。現在の減税規模は、10年間(2002年〜2011年)で1.6兆ドルを見込んでいる。ブッシュ政権の減税は、景気対策というよりも共和党の小さな政府の哲学と表裏一体の面が強い。たまたまそれが経済の減速と重なったもので、減税を実施するには良いタイミングとなった。
対日経済政策におけるブッシュ政権と前政権との大きな違いは、ブッシュ政権は、日本に対して景気刺激のための財政拡大を求めないことである。先週もワシントンでエコノミストや政府関係者との会合を持ったが、日本に景気刺激のための財政拡大を求めたのはサマーズ前財務長官以外いなかった。他方、日本の景気回復のシナリオとしては金融緩和が重視されているようで、ゼロ金利への復帰や長期国債の市場での買い切りオペの必要性などが指摘された。それによって長期国債の金利が下がり、資金が多少リスクをとっても株や外債に流れれば、株価上昇、あるいは円安による輸出産業の回復に繋がるというシナリオである。その際に、米国は円安を許容するのかについて明確な言及はなかった。感触としては、鉄鋼等の特定品目の問題を除けば、経常赤字が増えても安定的な資本流入によってそれが支えられていれば大きな問題とはならないという考えに思われる。
また、この関係で重要なのは、米国にとってのドルの価値は対円だけで測るものでないことである。円だけでみると円安が進めば米国は経常赤字問題に直面するようにみえるが、ユーロとの関係でみると、現在、ユーロは対ドルで上昇基調にある。したがって、ドルが対円で上昇しても対ユーロで下落してドルの実質実効為替レートがそれ程変動しなければ、大きな政治問題とはならない。
オニール財務長官の発言や財務省人事からは、ブッシュ政権では、国際金融危機に対し、IMFが大きな救済パッケージを作って投資家を救済することに批判的な勢力が影響力を持っていることが伺える。彼らは、IMFが lender of last resort として通貨危機に介入し、危機が他国に波及するのを防ぐという論理に対し、それは単に大投資家を救うだけでモラル・ハザードを招き次の危機に繋がるという考え方を持っている。従って今後、通貨危機において米国がIMFの実施する大規模なパッケージを積極的に支援するとは考えにくい。このようにブッシュ政権では、国際金融危機への対応面でも hands-off policy が浸透するだろう。
新政権下の日米関係について米国では、外交問題評議会のストークス上級研究員のグループや タイソン元大統領経済諮問委員長のグループ、アーミテージ元国防次官補のグループなどがレポートを出している。米国側からは複数のレポートが出ているのに対して日本側からは、将来の日米関係はこうあるべきというレポートが余り出ていないのは残念である。日本の戦略として将来の日米関係をどう考えるかという議論がもっとあって良いと思う。