経団連くりっぷ No.160 (2001年12月13日)

OECD対日都市政策勧告に関する懇談会(主催 香西 副会長/国土・住宅政策委員長)/11月13日

わが国の都市政策についてOECDと懇談


OECDは、2000年11月、わが国の都市政策に関する勧告をとりまとめたが、今般、本勧告の日本語版を出版したのを機に、ベルナール・ウゴニエOECD地域開発部長が来日した。これを受け、わが国の都市政策について、ウゴニエ部長と意見交換を行う懇談会を開催した。当日は、コメンテーターとして都市再生本部の山本繁太郎 事務局次長、越澤 明 北海道大学大学院教授を招いたほか、経済界から田中順一郎 国土・住宅政策委員会共同委員長(三井不動産会長)、森 稔 総合規制改革会議委員(森ビル社長)が出席し、コメントを行った。

  1. OECDウゴニエ地域開発部長説明要旨
    1. 都市再生の必要性
    2. 日本では、2001年の地価は1989年に比べて約4割の水準まで低下し、それによりさまざまな問題が生じている。地価の上昇は、(1)その資産効果により消費を増やし、経済活動を活性化させる、(2)キャピタルゲイン期待を生み、株価の上昇さらには企業の資産コストの低下をもたらし、企業投資の増加を通じて、経済活動を活性化させる、(3)不動産関係税制の税収増をもたらし、減税もしくは公共事業等の増加を通じ、経済の活性化につながることから、マクロ経済に対してプラスの影響を与える。
      日本においては、(1)地価の上昇(もしくは下げ止まり)、(2)官民のあり方など経済構造改革の推進、(3)東京、大阪等の大都市の国際競争力の強化のため、都市再生を図る施策を講じることが必要である。

    3. 日本においてとるべき都市政策
      −OECD対日都市政策の勧告とアーバン・ルネッサンス
    4. 対日都市政策勧告の概要は下記の通り。

      1. サステナブル・シティ実現に向けた都市中心部の再活性化と郊外部の成長マネジメント:
        コンパクトで機能的なまちづくりを行うべきである。

      2. 都市に見合った土地利用パターンの実現:
        小さな土地の所有者に有利な現行制度は修正されるべきであり、土地の集約化を促進する誘導策等を導入すべきである

      3. 規制の再構築:
        都市計画や建築分野等における適切な規制は強化すべきである。

      4. 都市への投資拡大:
        21世紀最初の10年間に一層の投資を戦略的に行うべきであり、既存の都市中心部や低未利用地へ重点的に投資すべきである。

      5. 整備財源の確保:
        財源配分の見直しやプロジェクト・ファイナンス手法による民間資金の導入を図るべきである。

      6. 個人の権利と公共の利益との調和:
        公共の利益の実現のため、私権制限は許容されるべきである。

      7. 国の役割の再評価:
        都市開発の基本的枠組みや関連施策のガイドラインを国は提示すべきである。

      8. 総合的アプローチ:
        都市政策には、全ての経済的・社会的情勢を反映させるための総合的枠組みが必要であり、国土交通省は総合的施策の展開あるいは地方の広域的調整において重要な役割を果たすべきである。

      これらを踏まえ、10〜25年にわたる大都市圏における長期ビジョンを策定、これを実行するアクションプログラムを作成し、アーバン・ルネッサンスを実現すべきである。その際、民間投資の促進を図ることが重要であり、「再生特別地域」を指定し、規制緩和や税制のインセンティブを付与するとともに、良好な公共インフラ、公共サービスを整備することが必要である。

  2. 各界からのコメント
    1. 田中 国土・住宅政策委員会共同委員長
    2. OECDの勧告は経団連の考えと基本的に同じスタンスにある。内閣総理大臣のリーダーシップの下、官民の英知を結集し、「都市再生のグランドデザイン」を描くとともに、「都市再生10ヵ年計画」を策定し、「都市再生戦略地域」を指定するなど、地域や期間を限定して集中的に民間の都市開発を促す政策を実施する必要がある。

    3. 森 森ビル社長
    4. 森ビルでは、現在、六本木ヒルズの再開発事業に取り組んでいるが、約500人の権利者との交渉や各種の行政手続により、再開発の呼びかけから着工まで14年、竣工まで17年を要している。
      今後、

      1. 都心部における高度利用の促進など都市化抑制から集積誘導への移行、
      2. 多数決の尊重など民主主義の徹底、
      3. 不動産取引税の軽減など、所有よりも利用促進を図る政策の導入、
      など、都市政策のパラダイムの転換を図る必要がある。

    5. 越澤 北海道大学大学院教授
    6. 空港や空港アクセスなど東京のインフラ整備の遅れが日本産業の競争力低下の原因となっている。これまで、中央と地方の対立構造のなかで政策が論じられてきたが、貿易立国であるわが国の首都圏が、国際社会の中でどうあるべきかを考える必要がある。
      良好なインフラ整備と民間投資をパッケージで取り組む政策が重要である。また、「100%合意しないと物事を決めない」日本人の伝統的な意識の改革を促し、東京再生のため、5年間で人材と努力とカネを集中的に注ぎ込むべきである。

    7. 山本 都市再生本部次長
    8. 国土計画、首都圏整備計画など、さまざまな計画がすでにあるが、これらは必ずしも官や民が投資の意思決定を行う際の手がかりとなる内容となっていない。都市再生にあたり国家戦略として何が重要かを決定し、提示しなければならない。その際、国と地方の関係など、垂直的な調整をうまく行う必要がある。財政構造改革により公共事業が削減される中、都市再生を効率的に行うべく、来年度予算編成に取り組む。

  3. 「日本の都市再生に関する提言」
  4. 最後に、ウゴニエ部長より、わが国の都市政策に関する最新の動向を踏まえ、日本の都市再生に関し、下記の提言が行われた。

    1. 中長期的な都市再生のため、大都市圏ごとのアクションプログラムの策定
    2. 特別地区の指定ならびに地区内における諸規制の特例、税制上の特例の付与等、都市における土地の集約化の推進
    3. 公共性の高い民間事業に対する公的な位置付けの付与
    4. 民間による都市計画の提案制度の導入、都市基盤の整備、流通課税の見直し等、都市への民間投資の一層の促進
    5. 都市再生本部に総合調整を行う強力な権限を付与する等、官民協働による総合的な施策展開の推進


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