経団連くりっぷ No.160 (2001年12月13日)

統計制度委員会企画部会(部会長 飯島英胤氏)/11月13日

経済統計と景気判断のあり方

−一橋大学経済研究所 浅子教授よりきく


統計制度委員会企画部会では、一橋大学経済研究所の浅子和美教授を招き、景気判断を行う際の注意点、問題点ならびに改善の方向性などについて説明をきいた。

○ 浅子教授説明要旨

  1. 景気の転換点などでは、景気指標と人々の景気実感との間でずれが生じることが多い。この要因としては、まず、景気指標の多くが変化の方向で示されるのに対して、実感は水準に依存する部分が大きいことが挙げられる。代表的な景気指標である景気動向指数(DI)は変化の方向を表すものだが、どの程度変化したかという幅は分からない。経済主体の主観的視点が欠けているという問題もある。また、景気動向指数の採用系列の多くは実質値であるが、景気の実感は名目値に左右されることが多い。さらに、経済指標そのものが、経済構造の変化を十分に反映せず、実感とずれたものになっている面もある。

  2. 現在、日本では景気判断と政策判断を同じ政府部内で行っている。正しく景気判断が行われ、政策判断に直結するのであれば問題ないが、政策判断のために景気判断を歪めている懸念は払拭しきれない。景気判断を行う部門と政策判断を行う部門の間には、ファイアーウォールを設けるべきだ。景気基準日付の公表が遅いことも問題だ。実は景気の転換点を過ぎているにもかかわらず、「景気の拡張期が何ヵ月続いている」と言われることが往々にしてある。また、政策発動の効果を正確に測定、評価することも不可欠だ。その際は、公共工事がどれだけ執行されたかなど、政府支出を把握できる体制を整備することが前提となる。

  3. 現在、より的確な景気判断を行うための、新しい景気局面モデルの研究が進められている。一つは、過去の景気循環のパターンから転換点を確率的に予測するNeftciモデルであり、これを拡張したのが「景気拡張期と後退期では景気変動のパターンが異なる」という非対称性の考えを取り入れたレジームスイッチ・モデルである。もう一つは、「景気」という架空のデータを関連指標(GDPなどの経済統計)から作り出すダイナミック・ファクター・モデルであり、Stock=Watsonモデルなどがそれにあたる。このモデルでは、「景気」を表すために用いる経済指標の数や種類によって異なる結論が出ることもあり、現在、さまざまな改善が試みられている。加えて、景気の実感をより的確に反映するために、アンケート調査などを利用することや、政策発動の効果も取り込んだ形へ発展させることも今後の課題となる。政府においても、既存の景気指標だけではなく、これらの新しい取組みも踏まえて景気判断を行うことを考える必要がある。


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