経団連くりっぷ No.160 (2001年12月13日)

経済法規委員会消費者法部会(部会長 宮部義一氏)/11月6日

企業や業界における自主行動基準とコンプライアンス経営の推進

−一橋大学 松本教授よりきく


経済法規委員会消費者法部会では、国民生活審議会消費者政策部会自主行動基準検討委員会委員長の松本恒雄一橋大学大学院教授を招き、「企業や業界における自主行動基準の策定とコンプライアンス経営の推進」について説明をきくとともに意見交換を行った。

  1. 松本教授説明要旨
    1. 消費者政策の変遷
    2. 日本の旧来の消費者政策は、1968年に施行された消費者保護基本法に基づく、行政中心型の枠組みによる。この枠組みは監督官庁の事前規制と行政処分によって実効が確保されてきた。
      規制緩和や構造改革の流れの中で、こうした消費者政策は、1990年代より行政中心から民事ルールの整備へと変容してきた。そのシンボルが、製造物責任法(1995年施行)、消費者契約法(2001年施行)、金融商品販売法(2001年施行)である。
      事業者側は、これらの法律を業種・業態に応じて解釈し、トラブルの未然防止と消費者の信頼獲得に向けた、自主的な対応を進める必要がある。

    3. ISO(国際標準化機構)の取組み
    4. 法律による強制規格ではないが、市場の信頼を得るために、企業が自主的に規格を遵守するという点で、ISOのシステム・マネジメント規格が着目されている。ISOには、COPOLCO(消費者政策委員会)があり、現在、下記の5本の規格について提案がなされている。

      1. 事業者による苦情処理(内部紛争処理)
      2. 企業のCode of conduct(行動規範)
      3. 産業界の支援によるADR(外部紛争処理機関)
      4. 電子商取引に関する消費者保護
      5. 企業の社会的責任

    5. 規格化への日本の取組み
    6. わが国でも、日本工業標準調査会により、JIS「個人情報保護に関するコンプライアンス・プログラム」が1999年、「苦情対応のマネジメント・システムの指針」が2000年に策定されている。
      来年には、電子商取引における消費者保護ガイドラインが公示され、また、企業の行動規範、業界主体の裁判外紛争処理について、検討を開始する予定となっている。

    7. 国民生活審議会での検討
    8. 国民生活審議会消費者政策部会は、10月4日、傘下に自主行動基準検討委員会を設置し、消費者と事業者の信頼関係を構築するための方法として、企業の自主行動基準のモデルとコンプライアンスのメカニズムについての検討を開始した。
      委員会は、2002年3月に自主行動基準のモデルについての中間報告をまとめ、業界からのヒアリングを経て、2003年4月に最終報告をまとめることとしている。

      (1) 自主行動基準の策定
      作成主体として、業界団体と個別企業が考えられる。海外では業界単位でひな型を策定する方向が有力である。その策定にあたっては、通常、企業の利害関係者が参加する。
      自主行動基準は、企業行動の全般について定めているものであるが、審議会では消費者問題に絞った検討を行っている。

      (2) コンプライアンス経営
      コンプライアンスとは、強行法規の厳守と任意規定の尊重、自主行動基準の遵守と定義できる。コンプライアンス経営を採用する企業のメリットとしては、下記が考えられる。
      1. 消費者からの信頼の獲得と他社との差別化
      2. 株主代表訴訟リスク回避(コンプライアンス体制の確立により取締役の注意義務を果たしたと認められる可能性が高い)
      3. 行政の介入の回避
      4. 企業の社会的責任を重視する投資家からの選好

      (3) 実効性の確保
      自主行動基準とコンプライアンス経営の実効性を確保するための手段としては、業界団体による制裁、第三者による企業評価、認証・マーク制度の導入による、取引先や消費者からの選別などが考えられる。
      また、米国の量刑ガイドラインや欧州の内部告発者保護制度も参考になる。企業の社会的責任を重視した投資家の行動も、企業の自主的な取組みの実効性を上げる方法として注目されている。

      (4) 今後の課題
      今後の課題としては、法律の強制力を使わずに、企業が自主的に行動基準を定め、事前に行動することにメリットを感じさせる仕組みをつくるかにある。

  2. 経団連側からの発言要旨
  3. 以上の説明を受け、経団連側からは以下の意見が出された。

    1. すでに企業は、自社の行動憲章、認証制度に準じており、格付けやユーザーによる評価というプレッシャーも受け、自主的な消費者対応を進めている。

    2. 業界レベルで横並びを促進する政府主導の自主行動基準の策定は、競争力の源泉である企業独自の消費者対応のインセンティブを損なうことにならないか。

    3. 消費者対応の詳細な内規を外部に公表するとかえって消費者の誤解を招くのではないか。

    4. 消費者行政について縦割りの弊害がある中でさらに規制の数が増える結果になるのではないか。


くりっぷ No.160 目次日本語のホームページ