産業空洞化について思う

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鈴木 精二 経団連副会長


昨今、産業空洞化が論議を呼んでいる。急激な円高、価格破壊などのデフレ現象、規制社会等の諸要因が、こうした空洞化をもたらしたといわれているが、日本産業の空洞化は、80年代にアメリカで見られた空洞化現象とは少し違ったプロセスをたどっているような気がする。

日本の場合は、従来からの公的規制の多さ、規制社会としての成り立ちが、資源の有効利用の観点からみて、多分に望ましくない空洞化を助長しているのではないか。

経団連の分析によると、規制緩和の経済効果として、規制産業において生産性が向上する効果と、内外価格差が縮小する効果との合計で、1995年度から2000年度までの累計で、実質GDPが177兆円の増加、雇用者数は74万人増える、という結果が出ている。規制緩和に対する反対論は、規制で守られている弱体な産業が淘汰されることによる摩擦や失業等に向けられているが、こうしたマイナス面を強調すると、元来強い競争力をもった産業の海外移転=空洞化を加速して、国内に生産性の低い保護的産業が残るという矛盾を招いてしまう。
アメリカでは、80年代に海外生産比率が高まり、製品輸入が増えたが、航空機や電子機器、化学、自動車等の基幹産業については、国際展開を進めながらも、なお国内での生産性をリストラやリエンジニアリングによって改善することに成功した。同時に、金融面の自由化と新技術(デリバティブなど)によって資本調達の多様化を可能にしている。

これに対して、日本は全く逆の道を歩もうとしている。規制の厳しい金融・証券の空洞化は、わが国の新産業・創業者的企業の芽を摘むおそれが強い。さらに、何よりも問題なのは、アジアや欧米各国がかつてない高い経済成長率を実現している時に、わずか2%前後の成長率に甘んじなくてはならない日本経済の現状である。産業空洞化は、今や日本の政治、社会の仕組み、個人の価値観に根ざした病弊なのかもしれない。そうだとしたら相当思い切った大手術が必要だろう。(すずき せいじ)


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