「自己責任」の重み

伊藤 助成 経団連副会長


来るべき21世紀は、高齢化、経済の低成長化、国際規模での競争の激化等、日本社会にとって未経験の課題が山積する時代となろうが、こうした時代にあって、日本がソフトランディングするためには、今、何が必要であろうか。

それは、欧米先進国にキャッチアップする過程で形成されてきた戦後50年の社会システムを、各経済主体(政府、企業、個人)の独自性が発揮できる創造型の社会システムに転換することであり、その具体的取組みが規制緩和である。

規制緩和の推進にあたっては、その前提としてまず、政府、企業、個人といった各主体が、これまでの「もたれ合い」の構造から脱却し、自らの判断に基づき行動し、その結果に対して責任を負う「自己責任原則」をそれぞれの行動理念として確立することが不可欠となる。

自己責任の確立によって、経済のダイナミズムを回復し、社会を活性化することが可能となろう。しかし当然ながら、「自己責任」の社会は「信賞必罰」の社会である。企業においては、これまでのような行政保護から脱皮し、新規参入者との競争による「適者生存」の世界に果敢に対峙しなければならない。個人もまた、自らの選択の責任を行政や企業に帰すような、これまでの意識は改める必要がある。さらに、政府においては、企業、個人の自己責任を問うに足る情報公開に取り組まなければならない。

すなわち、真に実効ある規制緩和の実現は、各主体がこうした厳しい現実を十分に認識し、受け入れることによって初めて可能となる。またそのプロセスなくして、新たな社会システムへの転換など望むべくもない。

21世紀まで秒読みとなった現在、来る時代に向けて、政府、企業、個人はそれぞれ自らに「自己責任」という言葉の持つ意味とその重みについて、今一度問いかけ、不退転の決意で臨む必要があろう。(いとう じょせい)


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