月刊keidanren 1996年11月号 巻頭言

‘魅力ある’金融市場の実現を

樋口 廣太郎
経団連副会長


国家経済を人間の体に例えると、金融システムはまさに血液循環ということができる。そして健全な血液循環システムが維持されなければ、体の諸機能が停止してしまうことは言うまでもない。

昨年10月に‘国際金融情報センター’が在日外資系金融機関を対象に実施したアンケート調査によると、わが国金融・資本市場の自由化はなお不十分との結果が出ており、各種の厳しい規制、不透明な金融行政、税制・手数料等各種コストの高さ、などによる『不自由さ』、『不透明さ』、『コストの高さ』が原因といわれている。このまま座視すれば、金融の空洞化が進むばかりでなく、新産業を育成するうえでも企業活動そのものにも大きな影響を与えることは必至である。

こうした状況を一刻も早く打開するため、利用者にとって利便性・効率性・透明性に優れ、グローバル・スタンダードに照らして国際的に通用し、自由と自己責任原則に裏付けられた‘魅力ある’金融市場を形成することが急務となっている。

まず、規制の原則禁止から原則自由へと緩和を推進し、金融業務の自由化、市場コストを引き下げるための諸手数料の自由化、外為法の手続きの見直しを行なうなど、金融・証券の保護的規制行政から市場重視型行政へ転換を図ることである。さらに、金融・証券税制の改革、短期金融市場の整備も併せて急ぐべきである。また、民間金融機関による自由で公正な競争を確保するため、公的金融のこれ以上の肥大化は避けるべきであろう。

幸い、ここにきて金融・資本市場の空洞化に歯止めがかかる兆しが見えてきている。オフィス家賃の下落や円高修正に加えて、規制緩和・自由化が進展してきたためである。

ヒト、カネ、モノ、技術のうちカネの逃げ足が一番早いが、環境さえ整備されれば戻るのも最も早いものである。世界の三大金融センターの一つとして復活する日も、そう遠いことではないと確信している。

(ひぐち ひろたろう)


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