月刊keidanren 1997年 7月号 巻頭言

日本再考のとき

国・企業・国民の自己改革

伊藤副会長

伊藤助成
経団連副会長


過去の歴史が教えるように、世紀の変わり目は、社会に大きなパラダイム変化を求める。21世紀のスタートもまた例外ではない。世界は、冷戦終焉後、資本主義自体の見直しを迫られている。日本も戦後50年が経った現在、大きな転換期にあり、これまでの発展を支えてきた経済社会システムからの脱皮が急務である。少子・高齢社会を迎えるにあたり日本は、国・企業・国民が、それぞれのあり様を今一度見つめ直す時期が来ている。

まず、国のあり方を考えてみると、一時は社会主義的資本主義の華麗な成功例として日本の繁栄がクローズアップされた。ところが、経済成長が低下するとともにその輝きを失い、現在、肥大化した行財政の硬直化・非効率化や各種規制の存在が、社会の活力を阻害し、国民の閉塞感を助長している。再び活力を取り戻し、国民の信頼を得るためには、政治の強力なリーダーシップのもとで国の役割を技本的に見直し、「小さく効率的な政府」を目指して構造改革を加速させることが重要である。

次に、企業も自己改革が求められている。すなわち、経済のグローバル化に伴い、今までの自己の規模拡大を目指す経営手法は時代に合わなくなった。企業は、新事業の創出やコストダウンの追求等により利益を拡大し、ROE(株主資本利益率)の向上を図る中で、株主の信頼を得なければならない。また一方で、社会との調和を目指し、企業市民として地域に受け入れられる存在となるためにも、フェアな精神や企業倫理の遵守に努めることが肝要である。

三つ目に、国民の意識改革である。戦後50年間の経済発展の陰には、個性よりも協調、自律よりも依存の体質があったと思われる。今後、自律型の経済に移行する中で、こうした体質から脱却し、「自己責任原則」のもと、個性を活かして創造性を発揮し、自助努力していく姿勢が求められよう。

これらの国・企業・国民それぞれの自己改革は、言うは易しで、大変困難な課題である。しかしながら、今こそ国家百年の計を立てるべき時であり、われわれは21世紀の日本を「活力ある長寿社会」にしなければならない。そして、日本人一人ひとりが、強い志と気概で新しい国造りにチャレンジすることにより、戦後の復興と同様、21世紀の日本においても再び‘奇跡’を起こすことができると確信する。

幸い今は、ベビーブーマー世代とその子供の世代が現役として活躍している、恵まれた時代である。改革は「今なら間に合う、明日では遅い」のである。

(いとう じょせい)


日本語のホームページへ