月刊 keidanren 1998年 5月号 巻頭言

アジアの危機と日本

末松副会長

末松謙一
経団連副会長
さくら銀行相談役


「世界の成長センター」と称せられたアジアが大きく揺れている。1997年7月、タイに端を発した通貨・金融危機はASEAN諸国に伝播し、次いでNIES諸国へと拡大した。大きな影響の出たタイ、韓国、さらに現在最も厳しい事態にあるインドネシアの3カ国については金融支援が必要となる事態に立ち至り、目下IMF主導の下、経済の復調に懸命の努力が続けられている。今年に入り、経団連も多くのアジアの隣人の訪問を受け、国情をお伺いする会合を持ったが、その声はいずれも切実なものがあった。

今回のアジア経済危機の原因については、これまで多くの識者の指摘するとおり、その背景に「経済構造の整備」と「経済成長」の間にアンバランスがあったものといえよう。しかし、さらに掘り下げれば、お会いした隣人たちの話や現地からの報告などからも、やはり各国がそれぞれにその国特有の根深い課題を抱えていることがわかる。

これまでアジアの成長は「雁行型」として特色づけられ、成長段階が少しずつずれながら同一方向を目指して進んでいるといわれてきたが、その実態は必ずしも一様ではなかったわけである。

かつて私はこの欄で、世界経済における日本とアジアの関係の重要性を訴え、わが国の座標軸に「アジアの中の日本」という視点を加えることの必要性を申し上げたが、このところのアジア各国の窮状を見るにつけ、ますますその感を強くしている。わが国にとって、各国への迅速で直接的な支援が重要なことは申すまでもないが、それにも増して、各国が目指そうとしている経済改革について、それぞれの特色を生かした長期的・構造的な支援要請が現地側から聞こえてくる。現在、わが国自身が長引く経済の低迷と構造改革の狭間で極めて苦しい時期にあることもあって、今一つ十分な対応ができないことに歯がゆい思いのすることも多いが、強い自覚と決意を持って直面している難局を切り開き再生を図ることこそが、今日のわが国に課せられたより根源的な責務ではなかろうか。

(すえまつ けんいち)
日本語のホームページへ