月刊 Keidanren 1999年 5月号 巻頭言

企業理念に時代の息吹を

企業理念のあり方を考える

川勝副議長 川勝堅二
(かわかつ けんじ)

経団連評議員会副議長
三和銀行相談役

わが国を取り巻く環境は誠に厳しい。バブル崩壊後の長期景気低迷、企業不祥事の続発、閉塞感の横溢と止どまるところがない。1980年代において、自信に満ち溢れていた日本も、今や自信を喪失し、方向性を見失っているように見える。

こうした時こそ基本に立ち返ることが必要である。とくに企業理念の重要性やそのあり方を改めて考える必要があることを強調したい。

まず、言うまでもなく企業の求める理想を指し示す社是・社訓や企業理念は自らの経営の羅針盤といえる。とくに経済社会がグローバル化、複雑化、スピード化するなか、目先の対応に追われがちなだけに、その重要性は一段と増している。

しかし、企業理念が言葉だけに終わり、空洞化していては何もならない。実践的な理念として組織に息づいていることが必要であり、そのためには時代の変化に応じて、企業理念に新たな息吹が吹き込まれていることが大切であろう。今、企業は、株主・投資家・市場の重視など日本的経営の見直しを迫られている。また、企業不祥事の発生は企業そのものの存続と経営の根本にかかわる大問題であり、経営リスク管理の観点から法令遵守を含む企業倫理への取組みは、企業にとり不可欠なものになっている。こうした新しい変化に照らして企業理念を再確認し、具体的な行動規範や企業戦略、チェック・アンド・バランスの仕組みに反映させ、組織の隅々に浸透させていくことが重要である。

因みに、80年代の苦境から復活した米国経済のなかにあって、長期的に繁栄している米国企業、いわゆる「ビジョナリー・カンパニー」の神髄は、自らの羅針盤としての基本理念と進歩への意欲が組織の隅々にしっかりと根づいていることだとの調査結果も出ている。

今、21世紀の日本の復活に向けて、企業は全力をあげて自己変革に取り組まねばならない。それには企業理念に新たな時代の息吹を吹き込み、変革に向けて全員の力を結集するための組織の実践的理念として活用していくことが何よりも肝要であると思う。


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