経営タイムス No.2636 (2002年7月4日)

奥田会長ら日本経団連首脳、フントBDA会長と懇談

−日独の経済情勢など意見交換


 日本経団連は2日、経団連会館においてドイツ使用者連盟(BDA)フント会長との昼食懇談会を行った。奥田碩会長、西室泰三副会長、矢野弘典専務理事らが出席し、日独の経済情勢、労働・社会情勢を巡って活発な意見交換が行われた。

 冒頭、歓迎のあいさつにおいて奥田会長は、1999年に日経連の会長に就任して間もない時期に欧州を訪問した際にBDAを訪れ、フント会長と懇談したことに触れ、再会を喜んだ。また、直前に行われたワールドカップの最終戦でドイツが準優勝に輝いたことをたたえ、日本国民がこの一カ月に経験した熱狂とエネルギーが、わが国に漂う閉塞感に風穴をあけるきっかけになってほしいと述べた。

 これに応じてフント会長は、今回のワールドカップを共催した日本と韓国のホスピタリティを見ならって、次回ドイツ大会の際に生かしたいと述べた。また、日本経団連の設立に祝意を示し、これまで日経連とBDAが築いてきた関係を、新団体においてもさらに強化させていきたいと述べた。

独の失業問題などフント会長が紹介

 フント会長からは、引き続いてドイツ事情について次のような紹介があった。

 昨年の成長率は0.7%とEUの中で最も低く、景気後退は明らかであるが、今年に入って景気は底を打った観がある。このまま順調に行けば0.7から0.8%の成長になるであろうが、これは当然ながらドイツ自身にとって充分な数字ではないし、ドイツに対して牽引役を期待するEU諸国からも批判を浴びている。

 こうした状況を打破するためには、労働市場、社会保障、教育システムなどで思い切った改革が必要であるが、ドイツでは3カ月後に総選挙を控え、各政党はその準備に追われ、政治情勢は空白が続き、進めるべき経済・社会改革、教育改革などに手のつかない状況にある。

 失業者は400万人で横ばいである。他方で専門職に対する求人は100万人にものぼり、ミスマッチが明らかになっている。政府は、フォルクスワーゲンの人事担当役員であるハルツ氏をヘッドとする諮問委員会に労働改革についての答申を要請しているが、これが実行されるのは選挙後であり、当面の改善は望めない。ただし、失業情勢については、地域間の格差が大きく、4%以下のところもあれば、旧東独地方では、17〜18%にも達している。

 もう一つの大きな問題は、社会保障である。高齢化や失業者の増大を背景に、さらに統一前の東独では社会保険料が支払われていなかったというドイツ特有の事情もあって、社会保障財政は大変厳しい。年金、健康保険、介護保険、失業保険などの保険料を合計すれば、課税前所得の41.5%(労使折半)にも上る状況となっている。

矢野専務理事が日本の情勢を説明

 続いて日本の情勢について、矢野専務理事から説明を行った。輸出の回復や在庫調整の進展により、日本経済も底を打ったと言われているが、個人消費や設備投資が伸びず自立的回復には至っていないこと、足元の雇用情勢が深刻なことを紹介し、こうした情勢下、連合と日経連が昨年10月に発表した「雇用に関する社会合意」推進宣言を踏まえ、今年の春の交渉では、節度ある賃上げにいたったことを見るべき変化と評価した。

 また、長期的課題としては、少子・高齢化の中、社会保障財政が危機的状況にあると述べた。

 雇用問題への対応として、日本ではワークシェアリングの議論がなされていることに触れ、奥田会長はドイツの状況について質問。フント会長は、ドイツではワークシェアリングというよりも、パートタイムの枠を拡大しようという方向にあると紹介した。そのため、パートタイムについては給与以外の労働条件をより魅力的にする方策として、初等教育では全日制の学校が少ないため、職場に託児施設を設けるなどの措置が考えられている。政府ではテレワークの拡大も狙っているということであった。

 共同決定法や経営組織法の下でドイツ独特の制度となっている監査役会への労働者参加についても、熱心な質疑が行われた。奥田会長は、ドイツへの海外企業からの投資に際しては、こうした共同決定や労働組合に対するイメージが大きな影響力を及ぼしているのではないかと質問。フント会長は、中央レベルの労使関係も、職場レベルの労使関係もここ数年、格段の改善を見せていると答えた。西室副会長も、自社のドイツでの経験を紹介して、労使関係はうまくいっているが、むしろ問題は短い労働時間や高い給与水準で、東欧と比べて競争力が低下しているのではないかと指摘した。フント会長は、労働時間は短いが、弾力性は高まって業務の繁閑に応じた運用がなされるようになったと紹介、今後は報酬についてもこうした弾力性を高め、横並びを排したいと述べた。

 意見交換を通じて日独両国の経済・社会には共通の課題が多いことが改めて明らかとなり、今後も相互の情報交換を活発化していくことを約し、懇談は終了した。


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