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経営タイムス No.2659 (2003年1月14日)

日本経団連がビジョンを発表

−「活力と魅力溢れる日本」実現へ


日本経団連(奥田碩会長)は1日、「活力と魅力溢れる日本をめざして」と題するビジョンを発表した。旧経団連は1996年、豊田章一郎会長時代に、2020年を目標としたビジョン(「魅力ある日本の創造」)をとりまとめたが、ここで掲げた諸課題はいまだ実現に至っていないものが多い。そこで、改めて21世紀に日本が再生していくための展望や価値観、課題解決に向けた行動規範などを検討し、新しいビジョンとしてとりまとめることとした。同ビジョンは、昨年5月の日本経団連総会で奥田会長が示した、「多様な価値観が生むダイナミズムと創造」と、それを支える「共感と信頼」を基本的な理念としている。それを踏まえ、2025年度の日本の姿を念頭に、国民が新しいかたちの成長や豊かさを実感でき、世界の人々から「行ってみたい、住んでみたい、働いてみたい、投資してみたい」と思われるような「活力と魅力溢れる日本」に再生していくために必要な具体的な提案と、改革を実現するための日本経団連の行動方針を示している。4章構成。各章の概要は次のとおり。

2025年度想定、具体的提案など示す

第1章 新たな実りを手にできる経済を実現する

財政シミュレーションの概要(社会保障制度改革の影響) 新しいかたちの成長や豊かさを提示している。具体的には、「『民主導・自律型』システムがつくる新しい成長」という考えを打ち出している。
まず経済・財政、さらには将来に向けた最大の不安要因である社会保障制度の持続可能性についてグランドデザインを明示し、改革の具体的な方向性を示すために、経済成長や国民負担率等に関するシミュレーションを行った(図表)。
その結果、少子化・高齢化が進んでも、社会保障制度や財政構造などの改革を断行すれば、2025年度までに名目3%程度、実質2%程度(年平均)の経済成長が実現できる。その際、消費税率の引き上げは不可避となるが、税率を2004年度から毎年1%ずつ引き上げると、消費税率は16%、国民負担率は47.2%に抑えることが可能となる。
また、2025年までの就業者数の減少(約610万人)を、女性や高齢者の社会参画、外国人の受け入れ拡大など種々の施策によって補うことができれば、消費税率を10%にとどめることができ、経済成長率も名目3.8%、実質2.6%まで上昇する。
次に、新しい成長を実現するために、付加価値創造のメカニズムとして、連結経営的に日本全体の経済を捉えることを提案している。具体的には、日本企業の対外直接投資収益や特許料などの技術料収入を日本国内に還流させ、先端的な技術革新に結びつけていくことである。その中心となるのが産学の連携である。企業がリスクを恐れず、新技術の産業化、競争に挑戦できる環境整備の一つとして、法人税率の大幅な引き下げを提案している。

第2章 個人の力を活かす社会を実現する

日本がめざすべき社会の姿として「自立した個人の力を活かす社会」の実現を訴えている。これは、戦後の日本における画一的な生き方や横並びの社会を改め、自立した個人の多様な価値観や多様性を力にする「個人中心の社会」を実現していく、ということである。
具体的には、自立した個人が意欲と能力をもって「公」を担っていくとともに、個人の必要性(ニーズ)や欲求(ウォンツ)に柔軟に対応できるよう、官と民、国と地方の役割を根本から見直す。そして、地域が主体となって新しい豊かさをつくり出し、発信していくことが求められる。そのための具体的な提案として、「州制の導入」を訴えている。
また、一人ひとりが、「精神的な豊かさ」を実感できるよう、個人の意志を尊重し、人生の節目において多様な選択を通じて新たな挑戦を行えるような制度の整備を提案している。例えば、子育てが不利にならないよう、職場、住まい、老人が集う場、保育園の近接した街づくりなどを通じて、仕事と子育ての両立がしやすい環境を整えることや、人生の最終局面である「最期の迎え方」についても、一人ひとりが確固たる死生観を確立する中で必要となる選択肢の一つとして、尊厳死の問題を取り上げている。
さらに、「多様性を受け入れる」という観点から、専門的、技術的分野の外国人はもちろんのこと、製造の現場や看護など幅広い職種に就く外国人についても、透明かつ安定した制度のもとで受け入れるシステムを設計し、外国人も活躍できる環境を整備することを求めている。

政治へも積極的に提言

第3章 東アジアの連携を強化しグローバル競争に挑む

東アジアの多様性がもつダイナミズムを強化し、グローバルな競争に勝ち抜くために、東アジア自由経済圏の建設が急務であることから、日本のイニシアティブにより、すでに日本が事実上、経済的に強く結び付いている東アジア諸国とともに、自由経済圏を遅くとも2020年までに構築することを目標にするよう提案している。
具体的には、域内における関税の撤廃、投資の自由化など、モノ、サービス、ヒト、カネ、情報という生産要素の移動の自由(5つの自由)の実現や、アジア通貨基金の創設などの域内協力と地球環境問題などのグローバルな問題解決に向けた協力(2つの協力)を実現することを提案している。

第4章 改革を実現するために

1―3章で述べたような改革を実現するために、日本経団連が民間セクターのリーダー、コーディネーターとして、民主導型の経済社会の実現に向けて各界各層と連携していくことを表明している。また、政治に対しても、経済の現場の声を反映した、明確で具体的な提言をより積極的に行っていくほか、与野党の政策と実績を評価した上で、企業・団体が資金協力する際の参考となるガイドラインを作成するなどして、政策を軸とした支援を政党や政治家に行っていくことを明らかにしている。

同ビジョンの有料配布用の冊子は1月22日発行予定。問い合わせは日本経団連出版・研修事業本部出版グループ(電話03―5204―1922)まで。


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