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経営タイムス No.2664 (2003年2月20日)

雇用確保へ強い決意示す

−奥田日本経団連会長・共同インタビュー


日本経団連の奥田碩会長は12日、今年の春季労使交渉について、記者団の共同インタビューを受けた。
今次労使交渉の見通しについて聞かれた奥田会長は、「会社の業績や将来性についての組合側の理解度は高い。その上での要求だと思うので交渉はうまくいくのではないか」との見方を明らかにした。
雇用の維持については、雇用を守るために大部分の企業は賃下げにシフトしているとの現状認識を披露するとともに、雇用は確保するという強い決意を示した。その上で、「ここ10年間、生産性が上がっていないのにベースアップが行われたことの是正がいま起こりつつあるのではないか」と最近の企業における賃金制度見直しの動向を説明。さらに、「生産性の向上や付加価値の増加などがあれば、賃上げする可能性はある」と語った。
賃金制度の見直しについては、現在の苦境への対応と、中長期的な視点から自社にふさわしい制度への移行――の2つがあると指摘し、「生産性の向上がなくても、勤続が1年増えれば給料も増えるというのは経済的におかしい」と、定昇の見直しの必要性にも言及した。
インタビューの主な質疑応答は次のとおり。

組合側の現状認識評価―今次労使交渉

定昇の見直しにも言及―賃金制度

■ 春季労使交渉全般

 ――
「春闘は終わった」という声が強まっている。急速に形が変わってきている中で、来年度以降はどうなるのか。
奥田会長
経営側は「春闘」ではなく以前から「春季労使交渉」といっている。別に春でなくとも必要があれば夏でも秋でも労使交渉を行い、給料や社会制度などを含めて労使の間で理解を深めて、検討し合うべきだと思う。年1回では少なすぎるので、最低年2〜3回は労使で話し合いをもつべきだ。
 ――
これまでは、組合側の要求があって経営側が回答していたが、今年は、定昇の見直しや圧縮など経営側からの逆提案が目立つが。
奥田会長
組合側が会社の業績や将来性を判断した要求をしており、それに経営側は応えたと思っている。経営側がリーダーシップをとったとは思っていない。
 ――
経営側も横並び意識というものがなくなってきたのか。これからは業績に応じて各社各様になるとお考えか。
奥田会長
そうなってくると思う。各社の業績によって評価されていくようになると思う。
 ――
横並びが崩れることに対して、経営者にこだわりはないのか。
奥田会長
こだわりはあると思うが、長期的には横並びが崩れることにならざるを得ないだろう。

■ 雇用

 ――
今春闘で、雇用を守り抜くという点では、労使が一致しているようにみえるが実際に賃下げによって、雇用が確保できるのか。
奥田会長
「雇用を守る」ということでいえば、緊急避難型のワークシェアリングを導入している企業も一部あるが、大部分の会社は賃下げにシフトしている。ワークシェアリングにしろ、賃下げにしろ、雇用の維持という点では同じだと思う。
 ――
雇用の維持とは何年先を言っているのか。
奥田会長
できれば、終身雇用をと思っている。
 ――
モノづくりが海外展開していく中で、どのようにして雇用を確保するのか非常に疑問だ。
奥田会長
今後ますます国際競争力が必要になってくる。賃金の現状維持、場合によっては賃下げをやらないと、日本は構造的にいって国際競争力がなくなってくる。そういうことを、労使ともに理解する必要がある。

■ 賃上げ

 ――
今後、日本では賃上げは考えられないのか。
奥田会長
生産性の向上や付加価値の増加などで国際競争力が高まり、日本の国力が上がれば、賃上げする可能性はある。
 ――
ベアについて、業績が回復すれば将来あり得るということか。
奥田会長
物価の上昇と生産性の向上があればあり得る。
 ――
賃下げの定義は。
奥田会長
賃下げには、今までの賃金カーブを寝かせること(昇給率の引き下げ)と、賃金カーブを全般的に下げることの2つがあると思う。
 ――
マクロ的にみると、個人消費の雲行きが怪しいという見方が濃厚だ。賃金抑制はデフレを悪化するのではないか。
奥田会長
組合側は「所得が増えなければ消費も増えない」と言い、経営側は「所得の増加は消費にまわらずに貯蓄にまわる」と主張している。1400兆円の個人資産を活性化するには、確固とした社会保障制度のグランドデザインを近いうちにはっきりと示し、将来不安をなくす必要がある。これが一番消費を喚起する方法だろう。

■ 賞与・一時金

 ――
ベアゼロ要求が相次ぐ中、一時金交渉では、過去最高の要求をする企業もあるようだが。
奥田会長
各社の自由であって、各労使が自社の業績をはっきり把握してそれに基づいて一時金の交渉を行えばよい。
 ――
業績によっては最大限、成果配分をするという理解でよいか。
奥田会長
業績によっては、一時金に成果配分が最大限入ってくるケースもあるし、悪ければ一時金を出さないということでもよい。

■ 賃金制度

 ――
労働時間に対してではなく、仕事のアウトプットに対して賃金を支払う方向に日本の賃金制度はいくべきか。
奥田会長
その方向に変わっていくだろうが、成果主義の場合、評価が難しい。評価をめぐって数年間は労使で話し合う必要があるのではないか。
 ――
アメリカ式の徹底的な個人主義の考え方をどう思うか。
奥田会長
いまの段階では日本にはなじまないが、将来的にはわからない。
 ――
国際競争力を強めるにはどのような制度が一番よいか。
奥田会長
一番必要なことは、賃金だけではなく、インフラも含めて日本の高コスト体質の改善である。総額人件費も含めて固定費を減らしていくことが国際競争力の維持・強化につながる制度ではないかと思う。

■ サービス残業

 ――
サービス残業についての現状認識と、今後についてお聞きしたい。
奥田会長
大企業ではときどきそういう問題が起こっていると聞いているが、中小企業の実態は把握できていない。労働させて残業代を払わないというサービス残業はあってはならないことだ。
 ――
サービス残業をなくすための日本経団連の取り組みは。
奥田会長
以前の労問研報告や現在の経労委報告の中で、労働時間管理の適正化と法律の順守を言っている。また、地方の経営者協会などに行った際にも呼びかけるなど、会員企業への周知・徹底に努めている。

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