日本経団連タイムス No.2729 (2004年7月8日)

日本経団連、河村文科相と懇談

−今後の教育や教育行政のあり方で意見交換


日本経団連(奥田碩会長)は2日、都内のホテルで、河村建夫文部科学大臣との懇談会を開催した。日本経団連からは草刈隆郎副会長・教育問題委員長、西室泰三副会長、勝俣恒久副会長らが、文科省からは河村大臣、馳浩大臣政務官らが出席し、日本経団連が4月に発表した「21世紀を生き抜く次世代育成のための提言」4月29日号既報)を踏まえ、今後の教育や教育行政のあり方などについて意見を交換した。

草刈副会長、国力強化へ人材育てる教育、「国家戦略の柱に」強調

冒頭のあいさつで草刈副会長は、次世代を育成するために教育界に求めることとして、(1)リーダーに不可欠な「志と心」「行動力」「知力」を涵養する教育を実施すること (2)均質性重視から多様性を求める教育へ転換すること (3)教育界だけで教育を行う発想を捨て外部の人材やノウハウを積極的に活用すること――を挙げるとともに、教育行政に対しては、多様性や競争、評価といった事項を基本とする、大胆でスピード感ある改革の遂行を求めた。
さらに草刈副会長は、日本にとって人材こそが最大の知的財産であり、国力強化のためには、人材を育てる教育を国家戦略の柱に据えるべきだとの考えを強調した。

続いてあいさつした河村文科相は、小泉純一郎首相の意を受けて、「人間力」の向上を目標に、教育の構造改革を進めていると説明する一方、構造改革の中では財政論や地方分権論が先行してしまい、教育の根本に関する論議が不十分になっている現状に危惧を表した。
また、子どもの周りに存在する暴力的・犯罪的な有害情報などを見直す必要があることや、「心の教育」という原点に回帰する必要があることを指摘。その上で河村文科相は、具体的な取り組みとして、(1)教育基本法の改正 (2)家庭や地域の教育力の再生 (3)学校現場の教育力の向上 (4)職業教育・キャリア教育の充実 (5)学力低下防止に向けた基礎・基本の強化――の5点を挙げた。

意見交換/高等・初等中等教育で文科相に意見と要望

続く意見交換ではまず、日本経団連教育問題委員会の宇佐美聰企画部会長が、高等教育と初等中等教育に関して、文科省に意見表明と要望を行った。
高等教育について宇佐美部会長は、(1)国立大学法人による起債や長期借り入れに対する国の規制を緩和して資金調達を容易にすることで、交付金依存体質を改める (2)18歳人口の減少により、2009年には、「大学全入時代」を迎えることも踏まえ、高等教育のグランドデザインを策定する――ことが必要であると強調。
また、初等中等教育に関しては、(1)教育委員会活性化などの教育制度改革について早急にスケジュールを策定し取り組みを開始してほしい (2)意欲的に新しい試みに取り組む教員への支援を行うとともに、地域で効果があがった教育改革を全国に展開してほしい (3)教員の質の向上を図るために教員免許更新制度や再教育制度を実施してほしい――と要望した。

これに対して、河村文科相や馳大臣政務官ら文科省側が回答。(1)国立大学法人の借り入れの問題は財政投融資制度全体の改革の中で考えていくこと (2)研究教育面での競争的予算を拡大することで高等教育の質の向上を図ること (3)経営困難になった教育機関への対応のあり方についてガイドラインを設定すること――が必要との考えを明らかにした。
また、教育委員会の活性化では、都道府県と市町村の双方の教育委員会の役割分担のあり方や、首長と教育委員会との関係などについて再検討するとともに、小規模な教育委員会については、広域的に教育を行う形に転換する必要があると語った。
教員の質の向上については、指導力不足教員の配置転換の措置を進める一方、教員免許の取得にあたり教員養成を目的とする専門職大学院卒を要件とすることや、国家試験を実施すること、教員免許制度更新制の導入を検討していることなどの説明があった。
さらに、こうした諸改革に関連し、内外の評価に基づく競争原理を学校に導入する必要性にも言及した。

少子化問題などにも言及

意見交換ではこのほか、日本経団連から、「教育基本法改正では、新しい国をイメージした基本法にしてほしい」「義務教育費国庫負担制度に加え、人材確保法や義務標準法を堅持したいというのは難しいのではないか」「少子化問題への対応には受身でなく積極的に取り組んでほしい」といった意見や要望が出された。

これを受けて河村文科相は「教育基本法には、生涯教育、文化伝統や道徳に関する事項、国を愛するということを明記する必要性を感じている」「憲法で、国民に子どもに普通教育を受けさせる義務を課し、その教育費については無料としている。これを実現するために、権限と財源をどうするかという問題がある。また、教員は大切だという理念を社会で持つことや、財政難から地方自治体が教員人件費削減に動くことを防ぐためにも現行の制度は守りたい」「子育ては大変だが、意義あることだとの意識を持たせるための教育を子どもの時から実施することが重要だ」「企業には従業員が家庭教育に関心を高めるよう協力をお願いしたい」と応えた。

懇談の最後に河村文科相は、「日本は人間づくりにもっと力を入れなければならず、文科省はそのセンターとなって教育現場を支援していきたい。経済界には、教育活性化への協力を要請したい。積極的に意見を言ってほしい」と呼びかけた。

なお、日本経団連側から、ITER(国際熱核融合実験炉)の日本誘致について、政府としても引き続き積極的に取り組んでほしいとの発言があった。

【社会本部人材育成担当】
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