日本経団連タイムス No.2729 (2004年7月8日)

宇宙開発利用の早期再開と着実な推進を

−日本経団連が意見書発表/意義や重点課題など示す


日本経団連は6月22日、「宇宙開発利用の早期再開と着実な推進を望む」と題する意見書を発表した。
日本の宇宙開発の現状は、昨年後半のロケットや衛星の事故による信頼性の低下、さらには厳しい財政状況を背景とした宇宙開発予算の長期低迷によって、全体的な地盤沈下が強く懸念されている。
こうした状況を踏まえ、同意見書は、宇宙開発利用の意義について、人類の夢と未来を切り拓くとともに、国民の社会生活の利便性向上や安全・安心の確保に欠かせない基幹インフラであると指摘。その上で、科学技術創造立国をめざす日本の国策として、ロケット打ち上げの早期再開や政府による宇宙の積極的活用、衛星測位に関する戦略的取り組みの強化など、科学技術の粋である宇宙開発利用を早期に再開し、今後とも着実に推進する必要があると結論付けている。
同意見書の具体的な内容は次のとおり。

事故原因を究明し対策

1.ロケット打ち上げの早期再開

H―IIA6号機失敗を受け、現在、他のミッション計画は軒並み中断・延期されており、中断が長引くことによる新規技術開発の遅れや士気の低下が、わが国の宇宙科学技術全体の水準低下や国民生活に影響を及ぼすおそれがある。また、H―IIA民営化後の円滑な打ち上げ市場への参入の観点からも早期打ち上げ再開が不可欠である。政府は、事故原因の究明結果とその対策に基づき、必要な実証を行い、1日も早くロケット打ち上げを再開させる必要がある。

2.信頼性向上に向けた取り組み

元来、宇宙開発には大きなリスクが伴うが、その克服のためには、何より、打ち上げ機会と宇宙空間での実証機会の増大ならびに地上試験、実機試験などの試験、基礎データベースの充実が不可欠である。
さらに、宇宙ミッションが従来の研究開発中心から、実用目的、民間移管など多様な形態へと性格を変化させる中、ミッションの目的・性格に対応した形で、政府、宇宙機関とそれぞれの企業の責任と権限の簡素化、明確化を図る必要がある。産業界としても、政府、宇宙機関および企業間の一層の連携強化、情報共有の推進を図る所存である。

着実に基本方針遂行を

3.宇宙開発利用の着実な推進

宇宙開発利用の基本的方向性については、科学技術創造立国をめざすわが国として、既に総合科学技術会議や宇宙開発委員会において、中長期的な取り組み方針が決定されてきたところである。今、重要なことは、失敗に揺らぐことのない国策として、基本方針を着実に遂行することであり、国際的な潮流に乗り遅れることなく、適時適切な資源配分を行うことである。
また、第3期科学技術基本計画(06年度〜)においても、国家の基幹技術として、宇宙開発の明確な位置付けを行う必要がある。宇宙をはじめとする国策としての基幹技術の戦略立案、資源配分、計画遂行には、ボトムアップ型のみならず、強力なリーダーシップも求められる。

4.当面の重点課題

(1)政府による宇宙の積極的活用

安全保障、気象観測、環境観測等の情報を地球規模で効果的に入手するためには、宇宙の利用が最も有効な手段であり、政府は、通信・測位・情報収集・観測衛星やその打ち上げ手段の充実といった宇宙インフラを整備し、国民の安心・安全や国民生活の質の向上に向けた積極的な活用と産業化の促進を図るべきである。
また、安全保障・危機管理における、宇宙利用の重要性の増大に鑑み、宇宙の平和利用原則の解釈を国際的な整合性を踏まえて見直し、国民の安心・安全のために宇宙の最先端技術を活用できるようにすべきである。さらに、宇宙開発利用を通じて、アジア地域をはじめとする国際的な連携・協力関係を強化すべきである。

(2)衛星測位に関する戦略的取り組みの強化

米国、EUなどが国をあげて戦略的な衛星測位政策を進める中、わが国では、いまだ国家としての測位戦略が構築されるに至っていない。早期に、国としての衛星測位システム戦略を策定するとともに、その整備・運用担当機関を決定し、わが国独自の衛生測位システムである準天頂衛星システムの整備に国を挙げて取り組む必要がある。

【環境・技術本部技術・エネルギー担当】
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