日本経団連タイムス No.2733 (2004年8月5日)

日本経団連・東富士夏季フォーラム

第4セッション/「日本企業の競争戦略」

― 一橋大学大学院国際企業戦略研究科長・教授 竹内弘高氏


「産業社会」から「知識社会」移行

「日本企業の競争戦略」をテーマに、一橋大学大学院国際企業戦略研究科長の竹内弘高教授が講演。竹内教授はまず、日本の国際競争力の低下が近年いわれているが、「去年あたりから日本を見る世界の目が変わった」と指摘した上で、日本企業がここ数年アメリカにおいて多くの特許を取得し、特許取得ランキングのトップ10入りをしている企業がいくつもあることを挙げ、「日本のミクロ(企業)はずっと強かった」との見解を示した。

次に、経営戦略について、(1)競争戦略 (2)資源ベースの戦略――の2つの流れがあると述べた。

競争戦略については、カンバン方式やTQC等によるコストダウンなど「オペレーションの効率化」と、他社と違ったことをしたり、何をやらないかを選択するといった「戦略的ポジショニング」の2つからなっていると解説。特に、他社と違ったことをするには勇気がいることから、戦略的ポジショニングに優れた企業を称えるために、2001年に「ポーター賞」を設けたことを紹介した。

資源ベースの戦略については、「一言で言うと“ナレッジ(知識)”になる」と説明するとともに、「現在は200年に一度の大きな変化が起こっている」と述べ、機械や組立ラインなどを生産手段とするこれまでの「産業社会」から、すべての従業員の“頭”(言葉や数字などコンピュータに入力可能な「形式知」)と“手”(経験や理念などの「暗黙知」)を生産手段とする「知識社会」へ移行していることを強調した。

その上で、日本人には豊かにあるといわれる暗黙知をどう形式知に変えていくか、また、一人ひとりに宿っている形式知や暗黙知をいかに「組織知」や「コミュニティの知」へ変えていくかがカギであると述べた。

さらに竹内教授は、新しい「知」を創造するには、(1)矛盾を受け入れる (2)対立を助長する (3)不両立を認める――ことが必要であり、「バランスをとるのではなく、違うものを戦わせて最終的には統合することが新しいイノベーションを生む」と語った。

最後に竹内教授は、日本企業の成長戦略について、(1)「自社の強みを活かす戦略」と「他社と違うことをする戦略」 (2)「モノづくり」と「コンテンツづくり」 (3)「トップダウン」と「ボトムアップ」――など、相矛盾する“二律背反”の要求を、何らかの形で統合して新しい形にする弁証法的な経営が必要であるとの考えを示した。

質疑応答・討議

<日本経団連>

二律背反は企業の成長過程で違ってくる上、経営トップ一人で行うのは難しいのではないか。

<竹内教授>

自分の考えとは違うアンチテーゼを言う人がいることが重要で、そういう人を重視すべきだ。

<日本経団連>

日本発のビジネスモデルや製造販売をいかに世界規模で浸透させるか。他方、海外の現場でそれをいかに完結するか、適切に分担するか、なかなか難しい。

<日本経団連>

日本発のビジネスモデルが必要である。日本企業の強みは、(1)マネジメント・スタイル (2)製品開発 (3)マーケティング――の3つだと考えている。そうした強みを、一つのモデルとして考えていくべきではないか。

<竹内教授>

日本はミクロではこれまでの蓄積もあり、暗黙知的な強みもある。いろいろな考え方やビジネスモデルを出していくには、いい時期にきているのではないか。

<日本経団連>

端的に言えば、アメリカ企業は経営者と投資家が近く、日本企業は経営者と従業員が非常に近いという違いがある。日本企業は経営と社員が一体になりやすく帰属意識も高いが、こうした意識の高さは今後も維持され、コア・コンピタンスたり得るのか。

<竹内教授>

日本は30代後半から40代のミドルが特に頑張っているが、アメリカではこの世代が空洞化している。この違いは日本の強みにもなる。こうした強みを活かしながら、日本型のビジネスモデルを考えないといけない。

<日本経団連>

終身雇用の内容がかつてとは変わってきている。労使がそれぞれの利益を考えて、終身雇用がいいということになってきたのではないか。

<日本経団連>

同感である。終身雇用は、昔は年功序列と結びついており、社会もそういう認識であった。しかし現在では、個々人の仕事に値段をつけてアメリカ流の職務給を導入しても、終身雇用は成り立っている。

<竹内教授>

日本の労働者は経営者と同じモチベーションをもち、同じ教育を受けて働いている。こうした国は日本だけであり、人材も一つの強みになる。

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