日本経団連タイムス No.2734 (2004年8月12日)

日本経団連・奥田会長、「第1回日本の次世代リーダー養成塾」で講演

−激動期に求められる若い力/「強い意志」と「高い志」を


日本経団連の奥田碩会長は6日、福岡・宗像市で7月28日〜8月10日に開催された「第1回日本の次世代リーダー養成塾」で講演を行った。「日本の次世代リーダー養成塾」は、日本の明日を担う若きリーダーを志す高校生が、各界を代表する講師陣と2週間にわたり議論を深めるというもの。塾長を務める奥田会長は、全国の高校生約180名を前に、「いまの激動期には、新時代を切り拓く若いリーダーが求められる」と述べ、強い意志と高い志をもった次世代リーダーになってほしいと呼びかけた。講演の概要は次のとおり。

1.次世代リーダーへの期待

(1)歴史の激動期に求められる若い力

次世代、つまり新しい時代のリーダーを考えるには、時代認識をしっかりと確認しておかなければならない。歴史には、「激動期」と「安定期」があり、現在の日本は、東西冷戦の終結に伴うグローバル化と、日本自らの文明を世界に発信する段階への移行を大きなきっかけとして、新しい激動期に入っているのではないかと考えている。
歴史の安定期には、経験豊かな人がリーダーとして適任だが、歴史的にみても、激動期には、古い考え方にとらわれない、新しい時代を切り拓く若いリーダーが求められる。

(2)多様性の時代

現在の激動期の先にある、新しい時代、新しい日本とはどういうものかはまだわからないが、すでにその兆しは見え始めている。そのキーワードは、「多様性」である。
世界にはいろいろな国や民族が存在し、一人ひとり考え方(価値観)や感じ方(感受性)が違う。これが「多様性」であり、国際化の中では、お互いの考え方・感じ方を大切にし合うこと、つまり「多様性を受け入れ、尊重すること」がとても大切だ。

しかし、多様性を受け入れるということは、自分勝手に生きていいということではない。多様性の前提は、(1)社会の基本的なルールを守ること(2)社会での役割と責任を果たすこと――つまり「公」を担うということ。そしてリーダーには、強い意志と高い志が求められることになるだろう。

(3)次世代リーダーに求められる資質

次世代リーダーに求められる資質は2つある。

一つは、自分が優れていたり成功しているのは自分の努力以上に、才能や環境に恵まれた幸運のおかげであることや、幸運に恵まれて生まれたからには、他人や社会のために貢献する義務があることを自覚している「本当の意味でのエリート意識」をもつこと。
もう一つは、自分の生まれ育った国の歴史や文化をきちんと理解して「日本人としての誇り」をもつことである。

(4)リーダー養成塾は「気づき」の場

今回のプログラムを通じて、今まで気づかなかったことをたくさんつかんだのではないかと思うが、この「気づく」ということが大切である。なぜなら、気づきは「学び」へのきっかけであり、学びはチャレンジのベースとなるからである。
リーダーは常にチャレンジし、自己改革していなければならない。リーダーはさまざまな分野で求められており、さまざまな生き方とリーダーシップの選択肢がある。政治家や起業家、NPO、会社で働くことやビジネスでリーダーシップを発揮することも、リーダーとしての立派な生き方である。

2.「会社」が社会で果たしている役割

(1)ニーズに応えて社会を豊かにする

会社は「ビジネス=金儲け」をするもので、ビジネスを通じて利益をあげることは社会にとっても大事なことである。企業は、世の中のニーズに応えて社会を豊かにするという存在意義、使命がある。社会から求められるニーズに応えることが、ビジネスの基本中の基本だということを、覚えておいてほしい。

(2)付加価値を生み出す

企業は、購入した原材料などに新たに価値を加えて商品やサービスをつくり出すことで「付加価値」を生み出し、それによって、利益や雇用を生み出している。
企業が利益をあげることは、単なる金儲けではなく、社会的に意味のあることである。税金を納める以外に、企業の利益は、株主への配当や役員賞与、従業員の賃金、社会貢献活動のほか、新商品の開発や新技術の研究、海外でのビジネス展開などに使われている。海外に進出して現地に工場をつくることで雇用が生まれ、仕事をすることでその国の人たちが給料を稼ぎ、その国が豊かになれば、企業の海外進出はすばらしい国際貢献でもあるということである。

自分を大切にして生きる

3.おわりに

いまの世の中をみると、若い人の評判は決してよくないようで、「いまどきの若いものは」という声を聞くことは多いのではないだろうか。しかし、すでに申し上げたように、これからしばらくは歴史の激動期であり、若い人の力が必要な時期である。自分を大切にして、自信をもって生きてほしい。
自分を大切にするということは、自分が「生きる」ということと、「死ぬ」ということについて、自分なりの考えをもつことだ。一度しかない人生を、どのように意味のあるものにしていくのか、思いをめぐらしてほしい。

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