日本経団連タイムス No.2735 (2004年8月26日)

日本経団連、IT分野のODA活用で提言

−東アジアとの経済連携念頭に、ビジネス環境整備求める


日本経団連の国際協力委員会(西岡喬委員長、辻亨共同委員長)は12日、IT分野における政府開発援助(ODA)の活用に関する提言をとりまとめ、同日、辻共同委員長が茂木敏充IT担当相を訪問し提出した。辻共同委員長は、政府のIT戦略本部が今年9月にIT国際政策を策定することにあわせ、ODAの制度改革が議論されることは大きなチャンスであるとした上で、茂木IT担当相が強力なリーダーシップを発揮し、同提言を実現するよう要望した。これに対して茂木IT担当相は、「ODA改革は非常に重要であり、IT分野で制度改革ができれば、ほかの分野でも改革が可能となる」と述べ、改革に向け努力すると応じた。同提言は、現行ODAにおいて国別の個別案件が先行し、途上国支援とともに国益を追求する視点も欠如していると指摘、東アジアとの経済連携を念頭に、ITを含むビジネス環境をアジアで整備するための、ODAの積極的な活用を求めている。同提言の概要は次のとおり。

1.戦略性〜経済連携を念頭に置いた東アジアでのIT展開〜

ITは、経済社会の発展に不可欠であり、わが国としても、2000年7月の九州・沖縄サミットで採択された「IT憲章」を受け、包括的な協力策を表明した。
IT協力を進めるにあたっては、特にわが国と密接な関係を有する東アジア諸国との経済連携強化のためにも、同地域におけるビジネス環境整備、わが国技術のアジア共通基盤化といった観点を加味したODA戦略を確立すべきである。その際、ハード・ソフト・人材育成を三位一体として推進することが重要である。

2.迅速性〜案件発掘から事業実施までの期間短縮〜

現在のODAは、案件発掘・形成から事業実施までに5年程度の期間を要するケースが通例であるが、技術革新が著しいIT案件については、2年程度の期間内に処理することが必要である。
そのためには、新しいODA大綱にうたわれているように、政策協議を有効活用し、わが国側から具体的なIT案件を積極的に提案していく必要がある。同時に、相手国からの要請受付・案件採択についても、現状の年1回から、随時の実施にするとともに、実施機関による各種調査の迅速化を図るべきである。

3.総合性・柔軟性〜保守管理経費等の支援対象化〜

ITは、初期の設備導入費用以外に保守管理経費等が相当発生するが、これらの経費は原則としてODAの対象となっていない。IT支援に不可欠なこれらの経費をODAの対象とすべきである。
あわせて、設計変更や予算変更等に柔軟に対応できるよう制度・運用を見直すことも必要である。

4.有償資金協力〜STEPの柔軟な運用とセクターローンの活用〜

タイド円借款STEP(本邦技術活用条件)は、わが国の優れた技術・ノウハウを途上国に技術移転することで「顔の見える援助」を促進するためにつくられた制度であり、主契約者を原則として本邦企業もしくは本邦企業がマジョリティを占める現地合弁企業のみを対象としている。ITシステム構築には、現地事情に精通したスタッフによる開発が不可欠であることから、主契約者の対象を、実質支配力基準に基づく連結対象子会社・関連会社まで拡大すべきである。
また、個別プロジェクト単位のみならず、セクターへのローンも活用すべきである。

5.無償資金協力〜さらなる活用〜

政府部内には、ITはODA、とりわけ無償資金協力になじまないとの見方がある。しかし、途上国の発展基盤整備のために必要であるが収益性の低いものについては、無償資金協力を、従来以上に活用すべきである。

6.技術協力〜IT人材育成支援の強化〜

途上国における人材育成は、わが国ODAの重要な柱である。IT支援を行うために、IT人材の育成を、産業人材育成の重点分野と位置づけ、わが国としての取り組みを強化すべきである。あわせて、知的財産権保護のための人材育成にも力を入れる必要がある。

7.体制〜総合調整機能の充実、政策対話の強化、民間経済界の知見の活用〜

IT協力を政府一体で進めるためには、体制整備・充実が求められる。IT分野の推進体制については、IT戦略本部と対外経済協力関係閣僚会議との機能の調整・連携や、政府・与党との連携強化を図るとともに、IT担当大臣はじめ、政治のリーダーシップに期待する。ODA中期政策においても、IT分野の国際的展開に関する戦略と、これに関連する制度改革等が盛り込まれることを期待する。

8.民間経済界の決意

IT協力における官民の役割分担と相互連携は、ますます重要である。民間経済界としても、IT戦略本部、ODA総合戦略会議、現地ODAタスクフォース等の場で、民間の知見・ノウハウを提供することにより、良質な案件の形成やその効率的実施の推進など、途上国の持続的成長とそのための基盤整備のために、今後とも積極的に貢献していく決意である。

【国際経済本部国際協力担当】
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