日本経団連タイムス No.2750 (2005年1月1日)

「経労委報告」発表

−「人材力」育成などを強調


日本経団連(奥田碩会長)は12月14日、毎年の春季労使交渉における経営側の基本スタンスを示す「経営労働政策委員会報告」(経労委報告)の2005年版を発表、柴田昌治副会長・同委員会委員長が記者会見した。今回の報告では特に、「人材力」の育成や多様な人材を活かした経営の推進の重要性を強調。賃金決定では、国際的にトップレベルにある賃金水準のこれ以上の引き上げは困難であり、市場横断的で横並びのベースアップはその役割を終えたと主張している。記者会見で柴田副会長は、「市場横断的な横並びはいまの日本社会に合わなくなった」と述べ、各企業が自社の実状に見合った賃金決定を行うことの重要性を強調した。2005年版の概要は次のとおり。

第1部 企業経営を取り巻く環境と課題

日本がグローバル競争を勝ち抜くには、もてる経営資源を有望分野へ積極的に振り向ける「攻めのリストラ」が必要であり、「人材力」の強化が必須の条件となる。
とりわけ人材以外に資源のないわが国では、少子化対策の優先順位を高く位置付けるなど国の意志を明確に示すべきである。企業では、従業員の仕事と生活の調和を図れる環境整備が重要となる。

第2部 経営と労働の課題

(1)人材力の育成

自社の人材をいかに動機づけて活用し、またそのための効果的な仕組みづくりをどう進めていくかが、最も重要な課題。その基本的な取り組みが「人材力」の育成であり、多様な人材を活かした経営の推進が求められる。

(2)多様な人材を活かすための方策

競争力強化には、人材の多様性を活かす人事戦略が必要であり、若年者や高齢者、女性、外国人、障害者を活用する方策を考えなければならない。

(3)人事・賃金制度

今後の人事・賃金制度の中心的な課題は、能力・成果・貢献への評価と処遇が整合する制度を、最適の形で確立していくことである。特に、運用面や環境整備に十分な配慮を行い、各企業の実状に適した制度の導入・運用を行うべきである。

(4)現場力の復活・向上

現場力の復活には、まずはトップ経営層が現場に深い関心と関与をもち、現場の人々が、より強い当事者意識をもって努力する仕組みをつくることが求められる。

(5)労働法・労働行政

仕事の成果が必ずしも労働時間に比例しない働き方が増大している現在では、裁量労働制の見直しやホワイトカラー・エグゼンプション制の導入など、労働時間法制の抜本的改正が望まれる。

(6)春季労使交渉・労使協議

国際的にトップレベルにある賃金水準のこれ以上の引き上げは困難である。その意味で、市場横断的で横並びのベースアップ要求をめぐる労使交渉はその役割を終え、個別企業においても、賃金管理の個別化が進む中では、賃金の一律的底上げという趣旨で機能する余地は乏しい。
今後の労使関係では、賃金だけでなく労働条件一般、さらに労働条件以外の経済・経営などについても認識の共有化が必要であり、労使協議の役割が一層重要となる。
「春闘」はすでに終焉しており、今後は、春季の労使討議の場として「春討」が継続・発展することが望ましい。

第3部 経営者が考えるべき課題

地域経済の本格的回復の鍵を握る中小企業も「攻めの経営」に転じる必要がある。特に、中小企業にとっての課題である資金と人材の問題解決に向けて、産官学の連携が求められる。
企業倫理の確立は、経営トップの責務である。優れた経営者は、企業活動を通じて社会に貢献するとともに、自らの経営理念・ビジョンを掲げ、企業のあるべき道を社会に示さなければならない。

【労働政策本部労政・企画担当】
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