日本経団連タイムス No.2763 (2005年4月14日)

観光委企画部会開く

−「観光立国に向けたわが国の課題」/稲垣・立教大学観光学部長が講演


日本経団連の観光委員会(江頭邦雄委員長)は3月30日、東京・大手町の経団連会館で企画部会(宇佐美皓司部会長)を開催し、稲垣勉・立教大学観光学部長から「観光立国に向けたわが国の課題」と題する講演を聴取した。

稲垣学部長はまず、2000年の段階で、世界全体の交流人口が7億人を超えていることに触れ、「観光に対するインセンティブは大きい」との見解を述べた。その上で、海外旅行に出かける日本人が毎年1500万人いるのに対して、訪日外国人旅行者は600万人足らずというギャップはあるものの、陸続きの欧州諸国と島国である日本とでは条件が違うこと、また欧州や米国から空路で10時間もかかることに鑑みれば、600万人は決して低い数字ではないと語った。

しかし、観光においては「脱産業化」が著しく、旅行会社が現在提供しているような画一的なパック旅行に人が集まるという状況ではなくなってきていると指摘。自然・文化遺産のみならず、人々の生活などが渾然一体となった総合的な魅力を最大限に活用し、観光客個々人の趣向を十分考慮した観光商品を提供しない限り、訪日外国人旅行者をこれ以上増大させることは難しいとの認識を示した。
具体的には、アニメ、漫画、日用雑貨といった日本の日常の大衆文化に魅力を感じているアジアからの旅行者や、「茶の湯」「歌舞伎」といった日本の伝統文化に関心を寄せる欧米を中心とした旅行者の存在を挙げ、マーケットは多角化していると説明。そういったさまざまな旅行者のニーズに対応していかなければならないと強調した。

続いて、景観の整備についても触れ、伝統的な建造物が取り壊されて駐車場に変貌してしまうといった、街並が崩壊していく事態は食い止める必要があると指摘した。また、都市再生も重要であるが、雑然とした街並をすべて再開発するのではなく、新宿東口や秋葉原のような猥雑であっても大衆文化が根付いた独特の魅力を醸し出す地域が、再開発によって失われることがないよう、配慮すべきとの考えを示した。

最後に稲垣学部長は、「観光振興には地域間協力が必要」と述べた上で、観光振興に伴い、観光客のみならず、観光客を対象とした各種ビジネスの流入によって、地域コミュニティ自体が変貌していくことを受け入れていく心構えが、地域にとって最も重要であると語った。

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日本経団連では、(1)観光資源の開発、景観形成等魅力ある国づくり (2)訪日外国人旅行者の増大、国際交流の推進 (3)観光立国推進体制の整備――などに向けた諸方策を中心に、「観光立国に関する提言」(仮称)を今年6月を目途に取りまとめる予定。

【産業本部国土担当】
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