日本経団連タイムス No.2767 (2005年5月19日)

医療制度のあり方で提言

−制度存続へ公的給付費の効率化・重点化を強調/中長期名目成長率基軸の目標を設定、伸び率の抑制を提案


日本経団連(奥田碩会長)は17日、意見書「医療制度のあり方について〜制度存続のための公的給付費の効率化・重点化〜」を公表した。昨年9月の意見書「社会保障制度等の一体的改革に向けて」2004年9月23日号既報)では、社会保障制度の一体改革の必要性と、公的給付費に目標値を定めた上で、改革工程を明確にすべきであることを提言したことから、今回の意見書は、特に喫緊の課題として公的医療保険給付費について、中長期の名目成長率を基軸とした目標を設定して伸び率を抑制するよう提案している。日本経団連は同意見書を17日に開催された「社会保障の在り方に関する懇談会」に提出し、政府に対して実現を要望した。同意見書の概要は次のとおり。

1.効率化・重点化の必要性

日本経団連の試算では、増税・制度改革を行わない場合、2025年度に、潜在的国民負担率が115%、政府長期債務残高が対GDP比478%になり、経済・財政は破綻状態となる。破綻を未然に防ぐためには、公的給付費について、効率化・重点化を一刻も早く推進しなければならない。
わが国の公的医療保険は、国民皆保険とフリーアクセスが特徴であり、その給付費の多くを現役世代からの保険料などで賄っている。しかし、高齢化の進行や、疾病構造の変化などによる医療費の増大のため、制度存続の危機を招いている。
公的医療保険制度が現役世代の負担によって成り立っている以上、公的給付費については、現役世代の支払能力の指標である名目GDP成長率を基軸にして伸び率を抑制することが重要である。
また、伸び率の抑制のためには、さまざまな施策を結集し、実効性ある施策を確立する必要がある。その際、安心・安全でかつ質の高い医療の提供と両立させるべきであることは言うまでもない。

2.効率化・重点化への取り組み

一定の経済前提から、(1)2010年代初めにプライマリーバランス黒字化を達成 (2)将来の潜在的国民負担率を高くても50%程度に抑制――という経済・財政の中長期目標を設定して、社会保障給付費全体の到達目標、さらに、個別制度ごとの到達目標を設定する。到達目標は、中長期の名目成長率を基軸に設定する。
次に、マクロ目標と整合的になるよう、個別課題ごとに、5カ年(10カ年)の到達目標を設定する。目標達成には、さまざまな施策をパッケージ化し、毎年の到達目標を立て、実施主体(国、地方公共団体、保険者、医療機関、国民)を明確化する。その上で、プラン・ドゥ・チェック・アクション(PDCA)というサイクルを、毎年繰り返していく必要がある。
国をはじめとする各実施主体は、毎年の到達目標と達成度合いを公表して、自ら評価を行う。達成していない部分については、その要因を分析・明確化し、改善策を翌年の施策に織り込む。

3.効率化・重点化のための基盤整備

まず国民1人ひとりが自分の健康に責任を持ち、これを増進するという意識改革を促すことが前提となる。その上で、計画の実効性を確保するには、次のような基盤整備が求められる。
保険者の再編・統合、拠出金の廃止によって、組織的、財政的に基盤を強化して保険者の自主性・自律性を高めることで、保険者機能の発揮・強化を図る。また、医療の標準化を基礎にした「包括払い」「医療機関の評価・競争」を促進するとともに、地域医療計画の見直しに基づく保険医療機関などの数量適正化を図る。
そのためにも、カルテやレセプトなど医療情報の電子化をはじめとした情報基盤の確実な整備を図る。
特に厚生労働省には、効率化・適正化を進めるために、(1)部局横断的な専門部署の設置すること (2)国全体としての数値目標と工程表を今秋までに作成・公表すること――を求める。

【国民生活本部医療・介護担当】
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