日本経団連タイムス No.2773 (2005年6月30日)

住宅・街づくり基本法制定を提言

−良質な住宅・住環境は重要な社会的資産


日本経団連は21日、「住宅・街づくり基本法の制定に向けて」と題する提言を発表した。「住宅・街づくり基本法」の制定については、2003年に発表した「『住みやすさ』で世界に誇れる国づくり」の中でも提案しており、今回の提言ではその実現に向け、住宅・街づくりの基本理念を定め、国・地方公共団体の責務、事業者・国民が協力すべき事項を明らかにするとともに、具体的に講じるべき施策をまとめたもの。良質な住宅・住環境を、重要な社会的資産と捉え、従来の社会福祉政策的な考え方から、豊かな住生活や美しい街づくりの実現をめざすものへと軸足を転換させていくべきであると主張している。今後、政府・与党、関係省庁などに建議するほか、経済界としてもその実現に努めていくこととしている。

同提言ではまず、国民が、「住」について満足を得られていない現状にあるとした上で、「住」の価値は住宅単体だけではなく、住環境とあわせてはじめてその価値を持つものであると指摘。また、大地震や犯罪への備え、地球環境問題への配慮、少子・高齢化の進行などの国家的課題の解決に向けても、住宅・住環境の向上は重要な役割を果たすものであり、さらに住宅は単なる「寝に帰る家」というものから、情報通信技術の利用により、個人が社会生活を送る上での活動拠点となるとの考えを示している。
これを受けて、今後の住宅政策の方向としては、(1)住宅を単なる個人資産として捉えるだけでなく、社会的資産として位置づけること (2)人口も世帯も減少する社会では量的な拡大政策から、質的な充実を図る政策への転換が必要であること (3)建設戸数などフローの重視から、ストックの活用へ (4)住宅単体だけでなく、住環境まで含めた、「住宅・街づくり」という枠で政策を考えること――が必要であると指摘。こうした観点から、住宅・街づくり政策を国家戦略として取り組むため、その基本理念と施策の基本的方向を盛り込んだ「住宅・街づくり基本法」の制定を要望している。

同基本法の理念には、(1)良質な住宅・住環境を社会的資産として位置づけ、一時的な景気対策としてではなく、経済政策の一環として取り組むこと (2)雑然とした街づくりから、自然・風土・歴史・文化的環境に応じた「美しい街づくり」への転換 (3)住まいにあわせた暮らし方から、「暮らしにあわせた住まい方」の実現――の3つを挙げている。
また、国、地方公共団体、事業者、国民の役割についても言及。このうち、特に、事業者の責務については、合理的な価格で良質な住宅とサービスをタイムリーに提供し、国と地方の計画に協力するよう求めている。

政策上の支援措置については、国が金融上、財政上、税制上の措置を講じ、地方公共団体がこれを弾力的に運用する必要があることを提起。その上で税制上の支援措置については、前回の住宅政策提言で主張した「住宅投資減税」を改めて要望している。今後の政策的支援は、良質な住宅・住環境の実現に向けて、個人の自助努力を促すことを政策の中心に据え、自己資金・借り入れの区別なく、良質な住宅の建設・取得や既存住宅の質を向上させるリフォームも含めて住宅投資減税を導入すべきであると主張している。
また、基本理念を実現するため、住宅政策の新たな基本計画に盛り込むべき具体的施策として、(1)良質な住宅の供給に向けた施策 (2)既存ストックの改善と流動化に向けた施策 (3)街づくりに関する施策 (4)住宅セーフティネット――の4つを例示。さらに施策の実施状況を評価するアウトカム指標として、(1)住宅の質に関する指標 (2)市場整備に関する指標 (3)住環境・街づくりに関する指標――の項目を設定すべきだとしている。
このほか、評価機関を設けて、施策の進捗状況をチェックし、必要に応じて計画の変更を建議できる仕組みを提言している。

【産業本部国土担当】
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