日本経団連タイムス No.2773 (2005年6月30日)

高度な情報通信人材の育成へ/大学のIT実務教育機能強化を

−産学官連携での取り組み提言


日本経団連は21日、提言「産学官連携による高度な情報通信人材の育成強化に向けて」を公表した。日本では、高度情報通信人材の質・量の不足が危機的な状況にあり、人材不足が日本のIT化推進のアキレス腱となることが危惧されている。同提言は、このような現状に対する産業界の危機感を明らかにするとともに、高度情報通信人材の育成を担う大学のITの実務教育の強化に向け、産学官の連携の下、大学の拠点化を通じた先進的取り組みが不可欠と訴えている。同提言の概要は次のとおり。

1.危機に瀕するわが国の高度情報通信人材

今後、世界最先端の高度情報通信社会を構築し、その成果を国民生活の質の向上や企業の競争力へとつなげていくためには、ITを活用して高い付加価値を創造できる高度な情報通信人材の育成が重要な鍵を握る。本提言では、高度情報通信人材の対象として、プロジェクトマネージャー、組み込みソフトやBPR(Business Process Reengineering)を担うスペシャリストといった人材を取り上げている。しかし、現在、ITのコア技術である、ソフトウェアの開発・利用に携わる人材の質・量の不足が深刻になっており、ソフトウェア開発の現場では、中国や韓国、インドなど、外国人技術者の活用や、海外への業務委託が急速な勢いで進んでいる。このままでは、日本のIT化推進、競争力に深刻な影響を及ぼすことが危惧される。

2.高度情報通信人材育成の現状

企業への人材の最大の供給源である大学は、学問的な教育研究が中心で、実務教育については、就業後、企業において1からやり直さざるを得ない。
日本経団連・情報通信委員会の調査によれば、ソフトウェア開発や、利用に携わる大学新卒者のうち、入社後、即戦力として企業実務に対応可能な人材はわずか1割にとどまっている。さらに深刻な事態として、新卒者向けのIT研修を受けても、企業の業務に対応できない落ちこぼれ層が新卒者全体の2割もいる。
日本経団連の試算によれば、産業界として、将来的に企業のITの中核業務を担うことが期待される、トップレベル層の高度情報通信人材を新卒段階で、年間約1500人必要としている。しかし、現状ではほとんど確保できていない。

3.産学官連携によるアクション・プラン

今後、このような人材育成に向け、大学のITの実務教育機能の強化を実現していくため、世界レベルの高度なITの専門的実務教育を行う「先進的実践教育拠点」を10校程度指定し、以下のようなステップを踏む形で、産学官が資金やインフラ、人材、ノウハウなどを集中的に投入し、世界レベルの高度なITスキルを備えた人材を確実に育成する必要がある。

〈ステップ1〉
産学官関係者が一堂に会し、対話を通じて、企業側のニーズと大学側の受け入れ体制のマッチングを図り、具体的な実践教育拠点を整備する。

〈ステップ2〉
産学官の意を受けたカリキュラムに基づき、大学は、より高度で実践的な教育を行い、企業も長期インターンシップの受け入れや、教材の提供、企業人の教員派遣など、積極的な協力を行う。

〈ステップ3〉
大学で実施された教育内容に対して、第三者による厳正な評価を行い、その結果に基づき、大学側はカリキュラム、体制等の見直しを継続的に行う。

【産業本部情報通信担当】
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