日本経団連タイムス No.2775 (2005年7月14日)

ビル・ゲイツ米マイクロソフト社会長招き講演会

−イノベーションと未来社会探る


日本経団連(奥田碩会長)は6月29日、東京・大手町の経団連会館で米マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長を招き、講演会を開催した。「イノベーションと未来社会」と題した同講演会には、日本経団連企業会員ら、約300名が参加した。

講演会の冒頭、あいさつした日本経団連の岡村正副会長(産業問題委員長)は、「日本が世界最先端のIT国家となるためには、絶え間ないイノベーションとIT利活用の推進が必要」と述べた上で、(1)IT環境整備 (2)先端技術開発 (3)情報スキル分野強化 (4)人材育成――の重要性を指摘、日本経団連としてもさらなる促進に向けた取り組みを積極的に行っていく意向を示した。さらに、同講演会でのゲイツ氏からのメッセージが、日本のITイノベーションの向上への一層の励みとなることに期待感を示した。
また、講演終了後には、奥田会長がゲイツ氏と懇談。アジア市場戦略などについて意見交換を行った。

ビル・ゲイツ氏講演概要

これから10年は「デジタル時代」

パソコンや携帯電話が普及しデジタル化が進んでいるが、仕事においても家庭のライフスタイルにおいても、完全なるデジタル化がなされたとは言い難い。しかしこれから10年の間には、大規模なIT技術の進歩により、デジタル化が進展し、お客様と提供者との関係において新しい仕組みが構築されるだろう。今後10年は「デジタル時代」と言える。
近い将来、映画はフィルムからデジタルに移行し、テレビはインターネットによって配信される。ニュースやスポーツといった情報は、自分の興味に合わせて関心のあるものを選ぶことができるようになる。例えば、PCが野球の試合などを限られた時間の中で面白い部分だけを自動編集し、ハイライトだけを見ることができる――といったように、私たちのライフスタイルは大きく変わるのである。

デジタル化における重要な変化は、ライフスタイルよりもむしろ仕事において起こる。デジタル化が進んだ今日でも、紙ベースの資料や長時間の会議、無駄な出張など、非効率な情報伝達・共有手段が採用されている。しかし完全なるデジタル化が進めば、例えば、紙ベースの資料はインターネット上で収録・共有され、検索やメンバー間の閲覧、自動翻訳などが可能になる。遠隔でも効率のいいビデオ会議等で時間の無駄が省ける。仕事の様式は大きく変わるのである。
またWeb検索はさらに進化し、欲しい情報が今以上にスピーディーに得られるようになる。さらに検索サーチのソフト自体が、どのような情報を探しているかを理解し、検索側はインターネットの情報に対して対話をすることもできるようになるだろう。

一方、デジタル環境になった場合に問題となるのがセキュリティと個人情報保護である。マイクロソフトでは、迷惑メールなど悪意ある行為に対する対策を講じ、情報の善悪を識別するソフトウェアの開発、チャットルームの危険性やクレジット番号の取り扱いに関する啓蒙活動を行い、日本の警察庁との情報共有も進めている。

IT市場の拡大と富裕国の課題

中国やインドといった国々がIT産業に注力し市場に参入、市場経済下の人口は劇的に増えている。これは喜ばしい変化である一方、アメリカや日本といった富裕国に大きな課題を投げかけている。市場経済下の人口が拡大すると、定量的ではなく定性的な変化をもたらし、イノベーションのスピードが飛躍的に速くなる。富裕国は付加価値のレベルをさらに引き上げ、イノベーションを加速化しなければ今のまま高い生活水準を享受することは難しい。
そのために必要なことは、教育への再投資である。日本の産学官連携による高度情報人材育成の取り組みはすばらしいので、マイクロソフトもこの取り組みに参加しており、大学教授と共同研究のための枠組みも作っている。今後、これを数十の大学に広げてイノベーションを駆動していきたい。優秀な学生が研究開発を行う環境を整え、企業家精神を高め、さらに知的財産保護を強化し、成果への対価を尊重することこそがハイエンドな経済を達成する上での重要なポイントである。

日本とのパートナーシップを一層強化

ITバブル崩壊により、IT業界では10年という長期のデジタル変化を過小評価しがちである。しかしITは1年ごとに劇的な変化を遂げている。この10年で世界の貧富の差は縮小され、医療は発達し、ネットワークは貧しい農村部まで広がると楽観視している。マイクロソフトは、常にグローバルな視点で市場をしっかり見据えイノベーションを進めてきた日本と、今後もよりよいパートナーシップを組んで、将来の事業チャンスを共に模索していきたい。

【産業本部産業基盤担当】
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