日本経団連タイムス No.2778 (2005年8月4日)

日本経団連・第4回東富士夏季フォーラム <第2日> 第5セッション

政党政治の明日―政治的現実を変えるために

−東京大学前総長 佐々木 毅氏


小泉政権の現状は、日本において、政党政治の基本問題がきちんと整備されていないということを示している。

政党は政権獲得をめざす政治家の集団であると定義される。そこに加わる政治家には、良いポストに就きたいとか、活動の場を得たいという希望がある。一方で国民は、政党や政治家が、望ましい政策課題を実現してくれることを期待する。このように3者の思惑には微妙なずれがあり、そういうずれを念頭においた上で、全体としてシステムがうまく動くように工夫していくことが大事なのである。

日本の政治には選挙至上主義という面があり、国民は選挙後の選挙公約実現に関心があるのに、実態は投票行為が立候補者への白紙委任と同様になってしまっている。候補者は、当選して議員となると、行動様式も態度も変わり、公約とは関係なく、適当に動くようになる。

選挙公約は選挙が終われば用済み、ということでは困る。選挙公約やマニフェストは選挙を超えるべき存在であり、国民のために意義あるものでなければならない。そのためには、政党は選挙に入る前に、国民に何を約束するのかを意思決定し、選挙に勝ったら、それを実行に移すということを前提としなければならない。党内の意見の相違をコントロールする方法としては、党首選挙が1つの大きな基点になると思われる。

選挙が終わり、ある政党が政権をとり、与党となったとき、与党は内閣に対する最大のサポーターでなければならない。また、内閣や、内閣と行政との接点に立つ大臣、副大臣、政務官、特に首相を中心として運営されるさまざまな会議は、党が決めた政権公約の実施体制にふさわしいものとして形成されなければならない。この点はなかなか難しいが、是非とも必要なことである。

日本の政党政治で厄介なのは、2院制が取られているということである。参議院があるのは良いが、いろいろな手続きが複雑になる上、参議院に解散はないし、衆議院への対抗意識も強い。衆参両院で違った議決でもしようものなら、後始末の方法がほとんどない。政権を決める選挙は衆院選であるから、衆院選で約束したことが党の約束と国民は考えるが、参院は「自分たちの選挙ではない」と言う。2院制は政党の力を弱めていると言える。そのことが、小泉政権において、明確になってきた。

いままでの意思決定の仕組みが機能不全に陥ったのを、小泉首相の個人的な意思と方向感覚でつないできてはいるが、「小泉後」の仕組み作りが自民党内で模索されている。国民は、政党が選挙で約束したことが、実行される仕組み作りを求めている。その仕組みも含めた包括的な政権運営のあり方を選挙の際に国民の前に示してもらえば、それを起点にいろいろなことができるのではないか。

(文責記者)
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