日本経団連タイムス No.2788 (2005年10月20日)

2010年度医療給付費、4兆円の抑制を

−政策目標として総額目標提言


日本経団連(奥田碩会長)は14日、医療制度構造改革の厚生労働省試案発表を控え、意見書「国民が納得して支える医療制度の実現〜2006年度の医療制度改革に向けた日本経団連のスタンス〜」を公表した。今回の意見書は、「2010年度の公的医療給付費を34兆円から30兆円へ4兆円抑制する」という独自の医療費適正化策を含む医療制度の抜本的な改革を求める内容となっている。同意見書の概要は次のとおり。

1.「政策目標」編

日本の公的医療保険制度は、国民生活の安心や、将来の不安を和らげる役割を果たしてきており、今後もその役割は変わらない。しかし、公的医療費は、高齢者医療費を中心に、将来にわたって経済成長を大きく上回って伸びていくと見込まれており、制度の持続可能性に重大な懸念が生じている。
少子・高齢化が進行する中でも、医療の高度化・質的向上を推進しつつ持続可能な制度を構築するには、公的医療費の総額について経済と整合する「政策目標」を設定し、それを担保するアクションプランを定めて、PDCAサイクルで適切に管理することが不可欠である。

政策目標は、医療費の実績や景気の動向によって変動する「伸び率目標」ではなく「絶対値目標」が適切であり、2025年度の潜在的国民負担率50%程度を実現するためには、25年度の医療給付費59兆円(厚労省推計)のうち15兆円を抑制することが必要である。
特に、2010年代に高齢者層が急増することを踏まえると、今後5年間は、重点的な対応が求められており、政策目標は、2010年度の医療給付費34兆円(同)に対して、「4兆円の抑制、医療給付費30兆円以内」が妥当である。

2.医療提供体制と診療報酬編

医療提供体制の改革では、ITを活用した診療データの蓄積・分析、公開を促進し、医療における透明性を高める必要がある。そのためには、情報の互換性が確保される形でカルテやレセプトの電子化を推進することが不可欠であり、医療機関・保険者・患者等が共有可能な「医療情報ネットワーク」を構築することを提案する。
また、医療の標準化を進めることによって、アウトカムの評価基準を整え、患者主体の医療機関の選択を可能とすべきである。治療成績などのアウトカムを含め、現在の広告規制を撤廃することも必要である。請求の内訳を記載した領収書については、医療機関に無料発行を義務付けるべきである。
診療報酬体系は、国民にとってわかりやすいものとするとともに、簡素化や包括化を推進し、効率的で質の高い医療を提供する医療機関を評価する。また、今次の診療報酬改定では、公的医療費の動向、経済・財政の状況等から、本体部分のマイナス改定が不可欠である。

3.医療保険制度編

国民が高齢者医療制度を納得して支えるようにするためには、高齢者を対象とする独立した保険者を設ける必要がある。その場合に、保険者は、医療費適正化への努力を促すため、財政責任を負った形態とし、市町村を軸に広域化を図っていくべきである。

被保険者は、公的年金の受給開始年齢や、介護保険の受給対象年齢との整合性を勘案して、65歳以上とし、また、給付財源は、高齢者保険料、公費、若年者からの支援の組み合わせとすべきである。具体的には、全ての国民で公平・公正に支えるために、公費負担割合を少なくとも5割以上とし、消費税の引き上げを含む税・財政の一体改革の中で必要な財源を確保する必要がある。また、若年者からの支援は、65歳以上の高齢者と一定年齢以上65歳未満の若年者との人口比に応じて分担するとともに、その運営に負担者も関与できる公平なルールが求められる。

高齢者の一部負担割合は、原則、外来3割、入院2割として、診療報酬体系については、高齢者の病態をふまえた一層の包括化が必要不可欠である。

限りある財源を考えれば、医療給付費の重点化は欠かせないことから、公的給付範囲の見直しを検討する必要がある。食費・居住費への給付は、在宅医療や介護保険との公平性の観点から、低所得者等に十分配慮しつつ、医療上必要なものに限定することが求められる。
また、重度の傷病への資源配分を強化するためには、外来受診に保険免責制などの導入を検討すべきである。

【国民生活本部医療・介護担当】
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