日本経団連タイムス No.2795 (2006年1月1日)

「経労委報告」発表

−“攻めの経営戦略”による人材戦略の重要性を指摘


日本経団連(奥田碩会長)は12月13日、春季労使交渉における経営側の基本スタンスを示す「経営労働政策委員会報告」(経労委報告)の2006年版「経営者よ 正しく強かれ」を発表、同委員長である柴田昌治副会長が記者会見した。2006年版ではまず、企業の懸命な努力によって景気は回復基調にあるものの、少子化・高齢化などの諸問題に直面する日本企業にとって“攻めの経営戦略”による多様性を活かした人材戦略が重要と指摘。その上で、今後も日本的経営の根幹である「人間尊重」「長期的視野に立った経営」を基本に、環境の変化に柔軟に対応し得る組織・人材戦略が求められるとしている。また、春季労使交渉に臨む経営側のスタンスについては、横並びで賃金水準を引き上げるベースアップはあり得ないとし、賃金は自社の実状を踏まえて個別労使が話し合って決定するとの原則をあらためて強調している。記者会見で柴田副会長は「個別労使の話し合いの結果、どのような決定をするかは個別労使の自由」と述べる一方、国際的にトップレベルにある賃金水準のこれ以上の引き上げはできないとの判断に至る企業が大多数を占めるとの認識を示した。2006年版の概要は次のとおり。

第1部 企業を取り巻く環境変化

今回の景気回復は、経営者と従業員が一体となって戦ってきた企業の懸命な努力によるものである。企業が今後も存続・成長するためには「攻めの経営戦略」によって「選択と集中」を進め、成長が見込める領域、自社が得意とする分野への積極的な資源投入と不採算部門の見直しを果敢に進めなければならない。
世界規模で激化する競争に勝ち抜き、わが国が成長していくためには、国全体の「人材力」を高めていくことが不可欠である。そのためには、国内における教育の充実が何よりも重要だが、企業が率先して世界中から高い能力を持つ人々を受け入れ、外国人と積極的に切磋琢磨することが必要である。

第2部 経営と労働の課題

(1)人口減少社会・高齢化社会への対応

わが国では急激に高齢化が進み、遅くとも2006年をピークに、人口が減少し始める。国・地方自治体には、少子化対策の政策上の優先順位を高く位置付け、予算・人員などを集中的に投入すること、実行のスピードを上げるために必要な規制改革を断行することが求められる。企業も「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)の考え方に立ち「ダイバーシティ」(人材の多様化)を活かす経営を進め、高い創造力を持つ人材を育成し、競争力の高い企業の基盤をつくる必要がある。

(2)企業の競争力を強化する人材戦略

グローバル競争が激化する中で、わが国が競争優位を保つためには、日本的経営の根幹である「人間尊重」「長期的視野に立った経営」の理念を基本において、環境の変化に柔軟に対応し得る組織・人材戦略が求められる。これからの競争力の源泉は、環境変化に適切に対処できる知的熟練である。このような高い能力を持つ従業員を育成するには、その意欲を高め、能力の向上が正しく評価される処遇制度が大事である。

(3)労働分野における規制改革・民間開放の徹底を

多様な働き方の推進や国際競争力の強化のためには、労働分野における規制改革が必要不可欠である。労働時間に関する規制改革としては、能力・役割・成果で評価されるべきホワイトカラーを労働時間に関する法的規制から適用除外とするホワイトカラーエグゼンプション制度を導入するなど、働き方の自由度や勤労意欲を高め、高付加価値の創造と生産性の向上を図るべきである。

(4)春季労使交渉・労使協議に臨む経営側の基本スタンス

景気は回復基調にあるが、事業環境は常に予断を許さない状況にあり、企業は絶えず競争力を高めるための努力を続けなければならない。現在、企業にとっては本格的に「攻めの経営改革」に乗り出す環境が整いつつあり、その好機を活かすためには、労使の一層の協力が不可欠である。生産性の裏付けのない、横並びで賃金水準を底上げするベースアップはわが国の高コスト構造の原因となるだけでなく、企業の競争力を損ねる。個別企業の賃金決定は個別労使がそれぞれの経営事情と総額人件費を踏まえた上で行うべきである。いかなる決定を行うかは個別労使の自由だが、結果的には、激しい国際競争と先行き不透明な経営環境が続く中、国際的にトップレベルにある賃金水準のこれ以上の引き上げはできないとの判断に至る企業が大多数を占めるものと思われる。
毎年の春季労使交渉・労使協議は、労使が定期的に情報を共有し、意見交換を図る場としてその意義は大きい。今後の労使関係においては、賃金など労働条件一般について議論し、さらに広く経済・経営などについても認識の共有化を図ることが大切である。春季の労使討議の場として「春討」が継続・発展することを期待したい。

第3部 経営者が考えるべき課題

企業は、公正な競争を通じて利潤を追求するという経済的主体であると同時に、広く社会にとって有用な存在でなければならない。しかし残念なことに、企業が関わる不祥事は繰り返され、企業に対する世間の不信感を高めている。企業不祥事は、企業そのものの存立を危うくし、経済界全体に対する信頼を大きく損なう。経営トップの姿勢こそが不祥事防止の根幹であり、企業行動を常時点検し、企業倫理を確立することは、経営トップの責務である。
普遍的な価値観の伝承、時代に適応した新たな価値観の創造、社会の信頼の獲得、さらに企業活動を通じた社会の活力の向上を目標に、公のために働こうとする経営者の志が、企業の将来を決める。企業本来の役割である価値創造を通して、社会に貢献する道筋をつくっていかなければならない。

【労働政策本部労政・企画担当】
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