日本経団連タイムス No.2796 (2006年1月12日)

「イノベーター日本」実現へ

−報告書「イノベーションの創出に向けた産業界の見解」取りまとめ


日本経団連の産業技術委員会(庄山悦彦委員長、桜井正光共同委員長)は12月13日、報告書「イノベーションの創出に向けた産業界の見解―「イノベーター日本」実現のための産学官の新たな役割と連携のあり方―」を取りまとめ、公表した。政府の総合科学技術会議では、2006年3月の第3期科学技術基本計画および分野別推進戦略の策定に向けて、精力的な検討が進められている。既に、日本経団連では、「知の創造」を「活力の創出」、イノベーションの実現へとつなげ、社会・国民に具体的な成果を還元すべき旨を訴えてきており、今回の見解は、総合科学技術会議の取り組みを踏まえ、改めてイノベーションの創出に関する産業界の考え方を取りまとめたもの。この見解を切っ掛けに、産学官が共通認識を得て、イノベーションの創出を図ることが期待される。報告書の要旨は次のとおり。

1.イノベーションの創出に向けた産業界の基本認識

  1. イノベーションを引き起こす最大の担い手は産業界である。産業界は、科学技術の成果をもとに、国民のニーズを見極めながら、低廉で多様、かつ高品質なサービス・製品を提供し、国民生活を豊かにする必要がある。そのためには、価値創造型の産業競争力を強化し、世界のフロントランナーとしての地位を確立することが求められる。

  2. 知の創造、イノベーションの種の創出・種の育成、イノベーションの実現という一連の流れの中で、大学、公的研究機関、政府が果たすべき役割も大きく、産学官で認識を共有することが重要である。

  3. 企業、大学、公的研究機関、政府が、適切な役割分担と連携の下に、スピード感を持って、イノベーションの創出を図っていくことが必要である。

2.イノベーションの創出に向けた産学官の新たな役割と連携のあり方

このような認識の下、イノベーションの創出を図るには、知の創造、イノベーションの種の創出・種の育成、イノベーションの実現という、一連の流れにおけるシステムを再構築する必要があり、具体的に、次の3点を提言した(なお、一連の流れは、リニアモデルを想定しているわけではない)。

提言1:イノベーションの種の創出にあたって、将来の経済社会を見据えるべき

最大の担い手は大学であるが、産業界としてもイノベーションの創出に向けて、大学との知のインターラクション(相互作用)に積極的に取り組むべきである。政府においても、大学の取り組みを支援することが期待される。また、「先端技術融合型COE」といった、有能な人材を集結した拠点の育成などを通じて、解の見えない課題や融合技術領域において、知の創造と体系化等に取り組むことが重要である。

提言2:イノベーションの種の育成は、市場環境整備と一体的に進めるべき

イノベーションの種の育成にあたっては、個別の取り組みを支援するだけでなく、市場環境整備を取り込んだ総合的な取り組みが不可欠である。主に、次のような取り組みが求められる。

  1. スピード感のあるイノベーションの実現に向けて、異業種を含めたトップランナー企業によるナショナルプロジェクトを推進する。その際、国際標準化、知的財産政策、規制改革と一体的に取り組む。

  2. 研究開発の成果について、政府が積極的に政府調達を行うことなどにより、初期需要の創出を支援する。あわせて、それにつながる研究開発を推進する。

提言3:イノベーションの種の創出と、種の育成をつなぐ仕組みを設け、イノベーションを加速すべき

知の創造とイノベーションの種の育成を横断的につないでいくことが重要である。そのためには、異なる府省間での成果目標やシナリオの共有を含め、文科省のシーズを経産省が育成するなど、府省間の連携をより一層進めるといったことが必要である。あわせて、「先端技術融合型COE」の推進などの産学協働により、イノベーションの各段階をつなげるとともに、イノベーションを担う人材の育成に取り組む必要がある。日本経団連としても、異なる段階をつなぐテーマを今後提案する予定である。

(注)イノベーター日本=総合科学技術会議基本政策専門調査会「科学技術に関する基本政策について」に対する答申で、めざすこととされた6つの政策の1つ

【環境・技術本部開発担当】
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