日本経団連タイムス No.2797 (2006年1月19日)

日本経団連労使フォーラム/企業トップ「パネル討論」

−「日本企業のグローバル戦略」


1日目に行われた、企業トップによるパネル討論「日本企業のグローバル戦略」ではまず、日本の国際競争力ついてマクロな視点から解説が行われた後、パネリスト各企業のグローバル戦略が紹介された。コーディネーターの西岡氏は、「人材」「研究開発」「内なる国際化」等に着目し、議論を展開。最後に、「THE WORLD IS FLAT」の言葉を示し、あらゆる意味で世界はグローバルかつフラットな状況になりつつあるとの見解を述べた。各パネリストの主な発言概要は次のとおり。

外国資本の対内直接投資促進 【柴田氏】

日本ガイシは、エコロジー、エレクトロニクス、エネルギーの分野に限ったセラミックス製品の研究開発を中心に事業を展開している。独自性の強い製品や技術、製法、また継続的な研究開発の投資はグローバル戦略の根幹となる。日本ガイシでは常に、売り上げの5〜6%を研究開発費にあて、現在、その技術開発から生まれた自動車用排ガス浄化用セラミックスは、世界マーケットの59%を占めている。
海外展開においては、需要とマーケット規模を重視する。短期的なインセンティブではなく、長期的な観点でマーケットの成長性や輸出する際のポジションなどを総合的に判断、プラントの進出の際のカントリーリスクを考える。例えば、現地の古い会社を買うと古い伝統や強い組合などが、レガシーコストとなり、会社の力を弱める場合がある。自社技術をもって初めから立ち上げていく方が現地での成功率が高い。
日本は今後、外国資本の対内直接投資を促進すべきである。外ばかりでなく、内に向かうグローバリゼーションが、同質社会の日本を変え、競争力を高めていくことになるだろう。優秀な外国企業を誘致するに当たっては、役所での煩雑な手続き等が課題となる。グローバルな視点で意識改革したサービスの確立、ワンストップサービスの浸透が期待される。

高いレベルの人材確保が課題 【加藤氏】

富士電機が現地化を進めるに当たっては、(1)安い人件費を利用した部品製造(サプライヤーとして、日本から進出した企業の側で工場を建設) (2)消費地における完成品の現地生産販売(合弁などを含め、消費地の側での製品生産) (3)設計開発から完成品までを現地化(現地で入手する材料・部品にあわせた開発設計やアフターサービス体制を確立して現地で継続的な顧客を確保)――といった段階を経て事業展開を行ってきた。
現地での課題は、管理職や資材購買担当者、エンジニア、製造現場での多能工・熟練工といった高いレベルの人材の確保が難しいことにある。その理由には、「日本の企業・工場は規則・ルールが多くて窮屈」「成果に見合った処遇がすぐに得られず不満」といった声がある。国際人事戦略のポイントは、まさに『Global guts Local face』であろう。課題解決に向け、(1)地域の特性に応じた人事・処遇制度の構築 (2)経営幹部確保のための長期的な育成プログラムの設定 (3)製造現場における「コア人材」の育成――を行う必要がある。また、内なる国際化も重要な課題である。事業構造が日本ほど変わっている国はない。絶えざるイノベーションを続けていれば、内なる国際化が進展しても、競争力が強化するだけのことである。ただし、ダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランスなどの概念が世界の潮流にある中で、国際的に通用する日本企業をめざす必要があるだろう。
最後に、知的財産の確保はグローバリゼーション全体の喫緊の課題である。

「人間力」育成へトップが率先 【大橋氏】

航空業界は、同時多発テロ以来、度重なる危機に直面し、厳しい経営環境におかれている。ANAでは生き残りをかけ、固定費の削減や機材面の改定に取り組み、国内線をベースとする一方、国際線は「中国」に特化し、補完的なコードシェアで充実を図るなど、「選択と集中」「量より質」を重視したグローバル戦略を展開している。しかし、他が真似できない競争力のコアは「人材」にある。ANAでは「挑戦する人材の創造」に向け、チャレンジと意欲、多様性や専門性に重点を置いた人材の開発・活用、公正で透明性のある評価を行い、社員価値増大を図っている。「ピンチをチャンス」に変えられる人材が育てば、企業は強い。
グローバルな環境変化を見据えた人材づくりにおいて、女性や高年齢者の活用は不可欠である。優秀な女性が仕事を続けられる環境の整備や、シニアの活用機会拡大を図りたい。また、社会問題となっている若年者雇用に関しては、幼年期から社会性などを培うことが重要との観点から、今秋、豊洲にオープンの「キッザニア東京」の開発に着手し、子どもが遊びながら職業観を養うことができるよう、CSRの一環として取り組んでいる。
ANAでは株主のみに偏重することなく、すべてのステークホルダーに責任を持つCSRを推進しているが、そういった「日本らしさ」を大事にしたい。
さらに、最も大切な「人間力」育成に向け、ANAではダイレクトトークという、「モノ言える職場作り」にトップ自らが取り組んでいる。
内なる国際化に関しては、互いに理解しあう人的交流、また物流・文化の交流をFDI以上に力を入れるべきである。一方、日本人のソフトな面のイノベーション、意識改革や社会性の確立が進まなければ、外国人が住みやすい、働きやすい環境にはならないだろう。

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