日本経団連タイムス No.2798 (2006年1月26日)

経済広報センターがシンポジウム

−「グローバリゼーションと国民経済の未来」探る


日本経団連の関係団体である経済広報センター(奥田碩会長)は18日、東京・大手町の経団連会館で「グローバリゼーションと国民経済の未来」と題したシンポジウムをマサチューセッツ工科大学ジャパン・プログラムと共同で開催、同センターの会員やMIT関係者などが出席した。急速に拡大するグローバリゼーションがもたらす経済・社会への影響や今後の方向性、グローバル市場で成功する企業の戦略などを探った。

基調講演では、スザンヌ・バーガー氏(MIT政治学部教授)が、「成功する企業の条件〜グローバル経済において最先端企業500社はいかに競争力を高めているか」を解説。世界各国の、それぞれの企業が行ってきたグローバリゼーションに対する最適組織戦略や最適立地戦略といった戦略モデルを99年〜04年にわたり調査し、その分析・研究について報告した。
その中でバーガー氏は、グローバリゼーションでの成功戦略についての検討を披露。現在の細分化された製造業の製造工程・生産システムは、80年代のそれとは大きく異なり、市場の成熟に対応した新技術とITの高度化によって、まるで「レゴ」ブロックのように、独立した企業が作るブロック(部品)を複数組み合わせることで多様な製品生産が可能になったことを説明した。その上で、その中心となる企業の強みを生かす判断、つまり企業内に留めるものやアウトソースするもの、また海外に持っていくものなどを選別・決定する方針こそ、グローバル化に対応する、ベストな戦略になろうと指摘しつつも、一方で、各国がすでに持っている「さまざまな種類の資本主義」モデルもそれに値し、よって単一な市場が作られることもないだろうとの見解を示した。
また、それだけではなく、自社のレガシーモデルを大事にしながら、今まで築き上げてきたリソースを組み変え、多くの経験や学びを取り入れながら常に変化させていく戦略も優位性があったと紹介した上で、「競争力にはいろいろな形態があり、グローバル化の課題に対応するための最適戦略は複数ある。斜陽産業はなく、すべての産業において成功の可能性はある」ことなどを主張した。

続いて、グローバリゼーションが日米経済や企業経営に与える影響などについてパネルディスカッションが行われ、まず青木昭明氏(ソニー顧問)が「ソニーの中国事業戦略」を紹介。中国という国家レベルに対応した戦略を行うことの重要性を指摘した。また、ロバート・マドセン氏(MIT国際研究センター上級研究員)は「グローバリゼーションと国際経済」の中で、「企業の行動が変わると変化が生まれる。企業にとっては合理性のあることでも人間社会には苦痛をもたらすこともある」とコメントした。河原春郎氏(ケンウッド社長)は、「成熟産業における企業再建」を説明。日本のような長期的に発展する企業の姿を描いた戦略モデルの場合、ファブレスやEMSは落とし穴になると指摘した。最後に、ヒュー・ウィッタカー氏(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)が「グローバリゼーションとものづくりの復活」として、日立製作所の改革事例を提示。「古い企業モデルやコミュニティーは崩壊したのではなく、新たなものへ革新・進化した」との見方を示した。

その後、「グローバル化コストに対し政府が行うべきことは何か」について意見交換が行われ、「社会福祉や社会保障、ヘルスケアなどのソリューション」「イノベーションの強化」「ボトムアップする教育」「クリエイティビティに富んだ人材育成」――などの意見が出された。最後に、モデレーターを務めたリチャード・サミュエルズMIT政治学部教授が、パネリストの発表内容を(1)経営の意思決定レベル、(2)国家の経済政策、(3)国際経済――の点から振り返り、今後の競争力強化のあり方や方向性を改めて示唆した。

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