日本経団連タイムス No.2800 (2006年2月9日)

「消費者契約法の一部を改正する法律案(仮称)の骨子について」に対するコメントを発表


日本経団連は1月23日、「『消費者契約法の一部を改正する法律案(仮称)の骨子について』に対するコメント」を発表した。

政府は、消費者契約法制定時の附帯決議(2000年)や司法制度改革推進計画(02年閣議決定)などに基づき、消費者契約において、同種の被害の発生・拡大を未然に防止するという「消費者全体の利益」を守るために、一定の団体に、事業者の不当な行為に対する差止請求権を認める制度「消費者団体訴訟制度」に関する法案(消費者契約法の一部を改正する法案)を今通常国会へ提出すべく、1月23日を期限に、同法案の骨子について意見照会を実施した。そこで、日本経団連では、経済法規委員会消費者法部会において、同法案の骨子に対するコメントを取りまとめるとともに、経済界の意見の反映に努めた。コメントにおける主要点は次のとおり。

1.基本的な考え方

消費者団体訴訟制度は、本来、訴訟を起こす資格や権限を有しない団体に対して、「消費者全体の利益」という公益のために、特別に差止請求権を認めるものであり、わが国の民事訴訟において前例のない制度となる。したがって、制度の濫用・悪用がなされる懸念があり、その場合には、不当な目的等による有形無形の利得を助長するのみならず、健全な事業活動が阻害されるおそれがある。したがって、本法律案の作成にあたっては、わが国の民事訴訟制度との整合性を図るとともに、制度が濫用・悪用されることのないよう、国民の信頼に足る堅実な制度設計を行う必要がある。今回の「法案の骨子」は、全体としては、制度の濫用・悪用防止に一定の配慮がなされており、今後の立法作業において、本案が法律上明確に規定されることを強く求めるとともに、経済界が特に懸念している事項についても、十分配慮していただきたい。

2.適格消費者団体の認定

  1. 適格要件について、「理事に占める『特定の事業者の関係者』又は『同一業界関係者』の割合が、それぞれ3分の1又は2分の1を超えていないこと」としているが、このような要件では、適格消費者団体に対して、事業活動を行う者や政治団体等からの影響力の排除には、不十分である。企業恐喝的な訴訟、和解金目的の訴訟、競争事業者による悪用等を徹底排除するため、事業者の役員・重要な使用人、適格消費者団体等と契約関係にある弁護士等については、過去5年以内にそうであった者を含めて、適格消費者団体の役員への兼任を禁止するか、少なくとも「特定の法人又は個人により実質的に支配され、『特定の事業者の関係者』又は『同一業界関係者』の割合が、それぞれ3分の1又は2分の1を超えていないこと」との要件が機能しない場合を排除する規定を設けるなど、より適正な要件とすべきである。また、「特定の事業者の関係者」ならびに「同一業界関係者」の定義を明確化すべきである。

  2. 適格消費者団体は、「差止請求権を濫用して行使してはならない」とし、不正な目的による訴訟を却下する仕組みを導入することには賛成であり、実効ある制度運用が期待される。

  3. 「適格消費者団体は、政党又は政治的目的のために利用してはならない」としていることには、賛成である。ただし、「政治的目的」の具体的な内容については、ガイドライン等で、詳細かつ厳格に規定する必要がある。

3.訴訟手続

  1. 適格消費者団体に対して、「事業者に対し書面による事前の請求をし、その書面の到達時から一週間経過後でなければ、差止めの訴え(仮処分命令の申立てを含む)を提起することができない」としているが、1週間という短期間では、事前請求に応じるか否かの判断が困難である場合も想定される。したがって、少なくとも営業日ベースとした上で、特別の事情がある場合には、期間を延長できるようにすべきである。

  2. 管轄について、民事訴訟法第5条の特別裁判籍として、「事業者の営業所等の所在地の管轄(第5号)」を認めることとしているが、手続面での迅速な対応や、特に中小企業など応訴の負担、同時複数提訴による弊害等を十分考慮する必要がある。したがって、原則、被告の本店所在地とし、特別裁判籍として「事業者の営業所等の所在地の管轄」は、当事者双方の合意がある場合に限り認めることが望ましい。

【経済本部経済法制担当】
Copyright © Nippon Keidanren