日本経団連タイムス No.2809 (2006年4月13日)

労使関係委員会政策部会を開催

−「労使とコミュニケーションの課題」/中央大学大学院・佐久間教授の講演聴取


日本経団連の労使関係委員会政策部会(横山敬一郎部会長)は3月29日、第17回会合を開催した。同会合では、中央大学大学院の佐久間賢教授から「労使とコミュニケーションの課題〜健全な上司と部下関係〜」について講演を聴取するとともに、現在取りまとめを行っている提言(案)について意見交換を行った。
佐久間教授の講演要旨は次のとおり。

上司と部下のコミュニケーションは職場運営の基本である。非正社員の割合が増し、多様な価値観や考え方の従業員が入り組んだ、いわば「モザイク模様」の職場では、コミュニケーションを中心にした上司の問題解決力が一層強く要請されている。
上司には本人の業務遂行以外に、部下との関係および当該上司のさらに上位の上司との関係という2つの側面からの役割が求められる。部下との関係とは、「面倒見」という言葉に代表される、部下の育成策である。仕事の指導が徹底して行われ、その過程で健全な上司部下関係が構築され、職場の問題解決力が形成される。
上司と上位上司の関係から求められる役割とは、上位上司を動かし、自らの職場の考えを企業の行動に反映させる「企業参謀」としての役割である。上位上司を動かすためには、視覚を通じて情報を正確に認識させるべく「見える化」の能力が必要である。
職場において上司は、部下を育成・指導し、ルールを運営し、日常の仕事(問題解決)を推進する。それが職場力となる。
以上から、「上司力=問題解決力+面倒見+見える化」および「職場力=上司力×(部下+ルール)」の2つの公式が仮説として成り立つ。
この仮説に基づいて行った、日・米・欧の企業の比較調査によると、優良企業ほど高い上司力、職場力を保有していることが判明し、また日本の優良企業の方が欧米の優良企業よりも上司力が高いという結果を得た。

しかしながら、同調査では、部下の仕事への意識や職場運営ルールといった側面において、日本の優良企業は欧州のそれに劣っていることも示されており、近年の実際の職場においても、意思決定集団である上司と、実行集団である部下との意思疎通がうまくいっていないという事象がみられる。
これは、長引く不況を要因としたリストラや行き過ぎた成果主義による「上司・部下間の不信感」の増大のほか、日本人のコミュニケーションに関する特質にも原因がある。
日本人には一般的に、(1)問題の大局的理解が弱い(2)意思決定に感情が入る(3)思うことを言葉で的確に表現する力が弱い(4)利害関係の対立を処理する力が弱い(5)英語への苦手意識――といった弱点がある。グローバル化や変化のスピードが増加し、利害対立の激化が進む現在の競争環境を勝ち抜くためには、こうした弱点を克服しなければならない。そのためには、それぞれの職場が直面する課題を乗り越えるべく、(1)問題点を絞り(2)解決に向けた代替案を生み出し(3)その代替案の長所・短所を評価し(4)結論を導く――という解決手法を身につける必要がある。

最近、成果主義の失敗から、再び年功制を復活させようとする動きが一部にみられるが、果たしてそれで信頼関係を回復できるのか懸念される。制度を変える前に、むしろ、職場を運営する上司には、コミュニケーション力を中心とした「上司力」を開発する経営教育が重要である。さらに、自己だけでなく交渉相手にとってもプラスとなる「ウィン・ウィンの関係」を築くような問題解決型のリーダーシップを養成する必要がある。

【労働政策本部労政・企画担当】
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