日本経団連タイムス No.2811 (2006年4月27日)

国の生活習慣病対策で民間活力活用を

−新産業・新事業委員会ヘルスケア産業部会が厚労省に要望を提出


日本経団連の新産業・新事業委員会ヘルスケア産業部会(赤星慶一郎部会長)は、国の生活習慣病対策における民間活力活用に関する要望をまとめ、14日、厚生労働省に提出した。

政府は増え続ける医療費の適正化をめざした一連の医療制度構造改革の集大成として、今通常国会に医療制度改革関連法案を提出している。その中で、生活習慣病対策が医療費適正化方策の1つに位置づけられた。つまり、加齢とともに発症リスクが高まる生活習慣病にかからないために、国民一人ひとりが積極的に健康維持に努めることが国策として求められている。
同法案では、健保組合、国保などの医療保険者に対して、40歳以上の保険加入者への健診ならびに事後指導の実施が義務付けられた。これは、健診によって糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病予備群を抽出し、事後指導によって病気への移行を防ぐというねらいがある。その際、医療保険者はこの健診・事後指導を自ら実施するだけでなく、民間事業者にアウトソースすることが可能になっている。
ヘルスケア産業部会では、これを大きなビジネスチャンスととらえ、民間活力活用の観点から、健診・事後指導のアウトソース推進に向けた要望を取りまとめた。

健診・事後指導実施体制の整備/成果目標の設定など

要望の論点としては、第1に、生活習慣病対策に関する成果目標の設定を要望している。政府は生活習慣病対策の導入により、2015年度の患者・予備群を08年度と比べて25%減少させるとの政策目標を掲げているが、肝心の医療費抑制効果については、25年度に2.5兆円抑制可能という見通しの提示に留まっている。保険者に生活習慣病対策の実施を義務付ける以上、国はその効果をわかりやすく国民に説明する義務があるので、例えば5年後にはいくら医療費を抑制するのか、金額についても具体的な成果目標を掲げるよう求めた。

第2に、健診・事後指導実施体制の整備を要望した。医療費適正化に向けて、保険者が着実に健診・事後指導を実施して生活習慣病予備群・患者を減らすことが求められているが、現在保険者が集めた保険料の約4割は老人保険制度を支える拠出金になっており、保険者機能の強化に向けた事業に十分な資金を使うことができない状況になっている。こうした状況を踏まえ、健診・事後指導の義務化に際しては、併せてインセンティブ措置の拡充や自助努力を前提とした支援措置の検討を要望している。

第3にアウトソース先の能力・信頼性等に関する評価基準の整備について要望した。具体的には、評価基準はあくまでも生活習慣病予防と直結した成果に着目して設定すること、基準設定に際しては学者・医療関係者だけでなく民間事業者からも意見を聞くこと、また、施設や有資格者に関わる基準が過重にならないようにすることなどを要望している。

第4に40歳未満を対象とした生活習慣病対策における企業と健保組合の連携推進、第5に生活習慣病予防の重要性に関する国民・保険者への啓発を要望した。

中長期的に生活習慣病対策の効果が出てくれば、その結果、国民はますます健康になり、医療費は適正化され、関連ビジネスが発展するというwin―winのシナリオが実現することが期待される。
今後ヘルスケア産業部会では、こうしたシナリオ実現への課題を整理する予定。

【産業本部産業基盤担当】
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