日本経団連タイムス No.2814 (2006年5月25日)

雇用委員会を開催

−「雇用の構造変化と政策対応」/清家慶大教授から講演聴取


日本経団連は19日、雇用委員会を開催し、清家篤・慶應義塾大学教授から、「雇用の構造変化と政策対応」と題する講演を聴取した。
講演の概要は次のとおり。

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近年の景気回復によって、地域的なバラつきはあるものの雇用失業情勢は目を見張るように改善している。特に顕著な指標は有効求人倍率であり、直近では1倍を超えている。1という数字は労働力の需給が全国的にバランスしていることを示している。
一方で、景気循環とは独立して進んでいる雇用面の構造的な変化にも注目しなければならない。構造的変化として、(1)労働力の趨勢的高齢化(2)失業率の趨勢的上昇(3)非正規社員の趨勢的上昇――の3点が挙げられる。

第1の労働力の高齢化は、人口の高齢化が主要因である。高齢化に伴い、少なくとも65歳までは現役として社会的負担を担うことになったが、これは最低限の改革であったと考えている。今後、少なくとも2025年までには定年年齢を65歳とするか、もしくはアメリカのように年齢差別を禁止しなければ社会の仕組みは成り立っていかないだろう。

第2の失業率の趨勢的上昇も顕著な動きである。高度成長期から1990年代前半までは日本の失業率は1〜2%台であった。これが95年に3%を超え、5%台まで急速に高まった。前回、有効求人倍率1倍を割り込んだのは92年であり、そのときの完全失業率は2%前半であった。現在、4%前半であることを考えると、構造的・摩擦的失業がそれだけ高まったといえる。
高失業下では、1つの会社の中で雇用を保障していくのではなく、労働市場を通じた雇用保障の仕組みを考えていかなければならない。場合によっては、解雇規制を見直し、再就職支援を義務化し、募集採用における年齢制限を禁止したりするなど、労働移動を妨げている慣行を排除することも求められる。

第3の非正規社員の増加は、最も顕著な動きである。90年代半ばまで、正社員は8割、非正規社員は2割であったが、現在では非正規社員比率は3分の1を超えている。非正規社員は「雇用の調整弁」ではなく、構造的に企業の雇用システムに組み込まれたといえるだろう。そのため高い非正規社員比率を前提に新しい雇用のルールを作らなければならない。
1つは両者の間にあるさまざまなギャップの解消である。現在のような10対6というような賃金格差は是正される必要がある。これは一義的には労使の課題である。今年の春季労使交渉では賃金の平準化ということが掲げられたが、これは労働組合としては当然である。非正規社員が増えている中で、格差をそのままにしておいて、組合活動を行っても説得力はないだろう。最大の課題は雇用保障、生活給といった正社員の既得権を手放すことができるかである。
また、厚生年金の適用の問題もある。年金を負担しなくても済むからパート社員を雇うということはどうか。公的制度が非正規社員拡大の理由となっている。国の制度が労働市場をゆがめているといえる。そうしたゆがみは排除されなければならない。

こうした政策課題を遂行する上での雇用対策の原則は、(1)労使自治(2)集団的労使関係の維持等による労使の情報格差の是正(3)事前規制緩和と事後監視監督強化――の3点に集約できる。

【労働政策本部雇用・労務管理担当】
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