日本経団連タイムス No.2816 (2006年6月8日)

投資ファンド研究会が報告書を取りまとめ

−日本経団連の主張反映


厚生労働省の「投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会」(学識経験者で構成。座長=西村健一郎京都大学大学院法学研究科教授)は5月19日、投資ファンド等の被買収企業の労働組合に対する使用者性に関して法改正は行わないことを骨子とする報告書をまとめた。

同研究会が昨年5月に発足した背景には、投資ファンドが被買収企業の役員に就任し、労働組合が労働条件引き下げについて投資ファンドに対して団体交渉の申し入れをしたところ、これが拒否され、労働組合が東京都労働委員会に救済を申し立てた事件(東急観光事件。その後和解成立)がある。

日本経団連は、労働法規委員会(藤田弘道委員長)の下部組織である労働法専門部会(小島浩部会長)を開催、使用者側意見の取りまとめを行い、昨年7月、同研究会のヒアリングにおいて意見表明を行った。
使用者側の主張点は、(1)仮に投資ファンド等が、従業員の雇用・労働条件を含めて、企業価値を損なうような買収をすることがあれば、改正会社法で認められた防衛策をとることが可能である(2)買収後、リストラ等が行われたとしても、当該会社の労働組合、従業員と投資ファンドから派遣された取締役と交渉すべきものであり、投資ファンドに直接交渉する必要はない(3)現行の判例法理では、純粋持株会社、事業持株会社、投資ファンドを問わず、一定の条件の下で使用者性が認められる余地があり、労働者保護に欠くところはない――などであった。

今回の報告書では、企業価値を高める買収は阻害すべきではないとの認識の下、投資ファンド等が被買収企業に対して団交義務を負うことを一般的ルール化することに反対する日本経団連の主張が報告書に反映される形となった。
同報告書では、(1)投資ファンド等が被買収企業に対して株主としての権利を背景に、どのように影響力を行使するかは一律ではない(2)したがって、投資ファンド等の「使用者性」については、投資ファンド等が被買収企業の労働条件を実質的に決定しているといえるか否かに着目して判断することが適当であり、親子会社間の親会社や純粋持株会社に係るこれまでの「使用者性」に関する考え方が基本的に該当する(3)すなわち、投資ファンド等の「使用者性」についても「基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある」(朝日放送事件最高裁判決)かどうかにより判断すべきである――とした。
そのほか報告書は、企業買収の際に良好な労使関係を構築するための留意点にも触れ、投資ファンド等は、被買収企業の労使関係が安定していることが自らにとっても大きな利益になることを十分認識し、良好な労使関係の維持に配慮することが望まれると指摘した。

【労政第二本部労働法制担当】
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