日本経団連タイムス No.2817 (2006年6月15日)

第98回日本経団連労働法フォーラム開催

−「格差差別事件、改正均等法、セクハラ、パワハラ等をめぐる法的留意点」を総合テーマに


日本経団連主催、経営法曹会議協賛による「第98回日本経団連労働法フォーラム」が5、6の両日、都内のホテルで開催され、全国から経営法曹会議所属の弁護士147名と、企業の担当者215名が参加した。今回のフォーラムは、「格差差別事件、改正均等法、セクハラ、パワハラ等をめぐる法的留意点」が総合テーマ。2日にわたる討議では、改正均等法の解釈や裁判例の分析検討を通じ、間接差別、男女差別、コース別雇用管理、母性保護、セクシュアル・ハラスメントなどの諸問題について、企業が法的に留意すべき点を探った。

「男女差別、コース別雇用管理、均等法改正、男女差別以外の格差差別事件(最近の裁判例)等をめぐる諸問題」
―研究報告 I/弁護士・深野和男氏

【差別をめぐる改正均等法案の内容と留意点】

改正均等法案の骨子は、(1)男女双方の性別による差別の禁止(2)「配置」に業務配分と権限付与が含まれることを明記(3)性差別による降格・職種変更・雇用形態の変更・退職勧奨・雇止めの禁止(4)間接差別(外見上は性中立的であっても実際上は一方の性に相当程度の不利益を与える措置)の禁止――などである。
このうち、(4)の間接差別については、コース別雇用管理制度をとって総合職には一般職と違って全国転勤が必要となっているが、実は転勤は全国的になされていない等、3つの場合に限定されている。現在、間接差別に当たる措置を行っている場合、改正均等法施行後も継続して実施すれば、改正均等法7条違反となる恐れが生じるため、早急に制度の整備・見直しをするべきである。

【男女差別・コース別雇用管理をめぐる留意点】

雇用の各ステージにおける男女差別問題の留意点は、次のとおり。
募集・採用については、指針で対象を男性のみとすること等の違反措置が示され、違反行為の法的効果は無効となる。なお、現行は女性に対する差別の禁止だが、改正均等法では男女双方の性別による差別の禁止となる。
賃金については、コース別雇用管理制度と認定されない場合に男女の差別的取り扱いに当たるか否かが問題となる。コース別雇用管理制度は、入口から異なるためその後の処遇が異なるが、そうではなく、入口が同じであればその後の処遇格差は賃金差別であると認定されやすくなる。なお、コース別雇用管理制度そのものは裁判例(竹中工務店事件)で合法とされている。
昇進・昇格についても、女性であることを理由とした差別的取り扱いを禁止している。一般に昇進請求権、昇格請求権とも認められないが、昇格が職位とは無関係で賃金と直接結びついている場合に昇格請求権が認められた例(芝信用金庫事件)もある。
退職勧奨、解雇、雇止めについては、改正均等法において性別を理由とした差別的取り扱いの禁止として明記される。

「母性保護、セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、紛争解決機関等をめぐる諸問題」
―研究報告 II/弁護士・岡芹健夫氏

【母性保護に関する企業の実務上の対応】

現行均等法上、「妊娠、出産、産休を理由とする解雇」が不利益取り扱いとして禁止されているが、改正法では母性保護を強化し、「妊娠又は出産に起因する能率低下を理由とする解雇」「妊娠等を理由とする雇止め」も禁止される。
また、妊娠中および出産後1年を経過しない女性労働者の解雇は、妊娠・出産等による解雇でないことを使用者が主張・立証しなければ無効となる。改正後は、事業主が、妊娠・出産等に起因する能率低下等による解雇でないことの主張・立証も行わなければならず、注意を要する。

【セクハラ・パワハラに関する企業の実務上の対応】

セクハラに係る事業主の行うべき措置については、「配慮義務」から「相談及び苦情の処理のために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずる義務」へ変わる。
そのため、法成立後に出される予定の厚生労働大臣の指針に留意する必要がある。
パワハラ(上司によるいじめ・嫌がらせ)は、法律に定義がなく、業務命令や教育的措置との区別も難しいが、事業主は上記セクハラ指針を参考に被害者の窓口を設け、被害の申し出があれば迅速に対応すべきであろう。

【労働審判制に関する企業の実務上の対応】

新たな紛争解決機関として今年4月から施行された労働審判制は、原則3回の期日で終了するため、労働者から申し立てがあれば、その準備のため事業主は迅速かつ正確な対応が求められる。そこで、日ごろから書面による記録を行い、労働者への書面交付を心掛ける等、適正な労務管理に留意すべきである。

質疑・応答

フォーラムの質疑応答は次のとおり。

〈1日目〉

【問】女性社員のみを対象として退職勧奨を行い、これに応じて女性社員が任意退職した場合、係る退職の意思表示は有効か。
【答】一般的には、退職の意思表示が自由意思によるものであれば有効だが、強制となると無効となる。強迫・詐欺等に当たる場合は、民法の規定により取り消すことができ、解雇無効の確認が認められるし、職場復帰とバックペイが認められる例が多い。女性社員の意思表示に瑕疵がない場合には、女性社員のみの退職勧奨が民法90条の公序良俗違反となるかが問題となるが、改正均等法がそこまで要求しているかは疑問であり、合意した退職・辞職の効力は変わらないと思われるが、違法な退職勧奨を行ったことについての損害賠償を請求される可能性はある。

【問】転勤を昇進・昇格の条件とすることを制度化できるか。
【答】改正均等法の間接差別の問題である。間接差別は、厚生労働省令に書かれたものに限定され、本問は間接差別には該当しないため制度化してもよい。仮に将来、省令の改定によって間接差別とされたとしても、転勤の必要性と昇進・昇格に合理的な関連性があることを立証できればよいので、それほど懸念することはない。

〈2日目〉

【問】昇給、賞与の査定、金額決定において現在の判例では、産休期間を不就労の期間として不利益に取り扱うことは、法の趣旨を実質的に失わせるようなものでなければ必ずしも否定されるものではないとのことだが、均等法改正により、妊娠などを理由とする不利益取り扱いの禁止が拡張された場合には、認められなくなるのか。
【答】基本的に、今回の均等法改正により妊娠などを理由とする不利益取り扱いの禁止が加わることによって、裁判所の考え方が特に変わるものではない。産休の取得という労基法上の権利の行使を抑制するものといえるかどうかは、実質的な判断が行われることになる。
例えば、産休を取って不就労期間がある場合、その不就労期間を、プラスに評価されない結果、従来よりも賞与額が少し減ったとしても、そのことで、直ちに権利行使を抑制するものとはいえず、違法ではないと考えられる。
制度要件との関係で、産休を取ってしまえば賞与が受けられなくなるというような厳しい条件である場合などは、権利行使を相当程度抑制するものであるとして、民法の公序に違反するということで無効になることがある。
しかし、今回の均等法改正により、これまで認められていたものが、認められなくなるものではないと考えられる。

【労政第二本部労働法制担当】
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