日本経団連タイムス No.2819 (2006年6月29日)

第95回ILO総会が閉幕

−労働安全衛生の促進的枠組み条約などを採択


スイス・ジュネーブで開催されていたILO(国際労働機関)の第95回総会が、16日閉幕した。
今回の総会では、昨年に引き続き労働安全衛生の促進的枠組みについて、条約作成をめざす討議が行われ、各国の安全文化の確立や国家プログラムの作成を奨励する内容の条約が出来上がり、ほぼ全会一致で採択された。
また、雇用関係に関する勧告作成をめざす討議では、出来上がった勧告案が契約自由の原則を阻害することなどを理由に、使用者側が採択に反対したが、各国政府、および労働側の賛成多数により採択された。
このほか、ILOの技術協力について、今後の方向性に関する討議が行われた。各議題の主な討議結果は次のとおり。

ミャンマー問題

住民に対する軍事政権による強制労働が問題になっているミャンマーについて、条約・勧告適用委員会と総会運営委員会の2つの委員会で討議が行われた。
昨年に続いて特別セッションというかたちで討議を行った条約・勧告適用委員会では、ミャンマーの強制労働は一向に改善されておらず、特にミャンマー政府が強制労働の苦情申し立てをした住民を捕らえ、起訴している状況は、深く憂慮すべきことであるとの認識に達した。そのため同委員会は、ミャンマー政府に対し、強制労働への苦情申し立てを正当に取り扱う仕組みの整備などを早急に行うよう呼びかけた。
同委員会での討議を受け、総会運営委員会では、実効的な強制労働撤廃に向け、ミャンマー政府に対しILOと直ちに協議に入ることなどを呼びかけた。

第4議題「労働安全衛生のための促進的枠組み」(基準設定・第2次討議)

ILOの活動において高い優先順位を持つ労働安全衛生について、各国におけるさらなる取り組みを促進するため、国の政策の中で労働安全衛生を重視し、推進体制の構築を促す「勧告で補足された条約」の策定をめざし、討議を行った。
昨年の第1次討議の結果を踏まえてILO事務局がまとめた条約案に対して、労働側から、安全衛生に関する既存の条約の批准を奨励する条項や、安全衛生に関する労働者の権利を定める条項の追加が求められた。これに対し、多くの政府と使用者側は、条約は各国が批准できるよう柔軟で包括的な内容とするべきとの観点から反対し、追加の条項は受け入れられなかった。
委員会での討議の結果、労働安全衛生を促進するための国家プログラムの作成や、労働安全衛生に関する自国の基礎情報の整備などを内容とする条約案がまとまった。同条約案は総会全体会議の投票で、ほぼ全会一致で採択された。
なお、同条約と直接関係はないが、アスベストの将来的な使用禁止や、ILOのアスベスト条約批准促進などを内容とする「アスベストに関する決議」が委員会において作成され、総会全体会議で了承された。

第5議題「雇用関係」(基準設定・1回討議)

今回の議題設定の背景には、コスト削減等を意図して雇用者を自営業者として独立させ、本来の雇用関係を隠す「偽装された雇用関係」という問題が世界中で増えていることがある。ここ10年来、この新しい問題に対しILOはどのように対応すべきか問題提起されてきたが、基準作成に関する合意形成は困難であった。今回は、各国がこのような就業者に適切な労働保護を与える際の、指針となる勧告の策定をめざして討議を行った。
主な争点は、勧告において、(1)偽装された雇用関係をどのように定義するか(2)雇用関係の存在にかかわる要素や指標を具体的に例示するか(3)そのような指標に合致した場合に、雇用関係を推定するといった施策を盛り込むか――であった。
指標に合致すれば雇用関係を推定できるとなると、契約自由の原則を阻害し、ひいては雇用創出にも悪影響を与えると主張する使用者側と、指標を求めるEUや途上国を中心とする政府、および労働側との対立は厳しく、打開策をめぐり作業部会で検討が続けられた。
しかし、結果として決裂し、使用者側が審議に参加せず、指標などが盛り込まれた勧告案を支持しない姿勢を明らかにした。
最終的には、委員会で出来上がった勧告案は、総会全体会議での投票で、使用者側の反対94票、一部政府の棄権40票があったものの、多数政府と労働側の賛成が329票と有効投票数の3分の2以上を占め、採択されるに至った。

第6議題「技術協力におけるILOの役割」(一般討議)

ILOでは、国際労働基準の設定や実施状況の監視とともに、主に途上国を対象に、労働に関する政策の立案や実施について技術指導などを行う「技術協力」が活動の柱となっている。今回の議題では、ILOの技術協力活動の将来方向について討議を行った。
討議では、ILOが力点を置くべき技術協力の活動内容に関して、労使の見解が異なっていた。労働側は国際労働基準の批准につながるような活動を、使用者側は雇用創出につながる活動を強調した。結論には双方が盛り込まれたものの、雇用創出を通じたディーセント・ワーク(人間らしい仕事)の実現に重きを置いたものとなった。
委員会討議の結論は、(1)技術協力は、国際労働基準を達成する重要な手段であり、また、雇用の創出、企業の発展などにも寄与している(2)ILOが掲げるディーセント・ワーク実現のために、国レベルの政労使三者の協議によって行われているディーセント・ワーク国別プログラムにさらに力を入れ、他の開発機関等が行う技術協力活動とパートナーシップ関係が築けるように進めていく必要がある(3)技術協力を効果的に進めるには、各国政労使の能力向上のみならず、ILO職員の能力向上も必要である――などの内容が盛り込まれた。

◇ ◇ ◇

ILO総会期間中の8日、アジア太平洋経営者団体連盟(CAPE)と国際自由労連アジア太平洋地域組織(ICFTU−APRO)が、首脳同士でアジア太平洋地域における経済連携をテーマに懇談を行った。また、13日には、CAPE理事会を開催し、今後の活動などについて審議を行った。

【労政第二本部国際労働担当】
Copyright © Nippon Keidanren