日本経団連タイムス No.2826 (2006年8月24日)

雇用委員会を開催

−「格差と多様化そして新しいキャリア形成」/佐藤・東京大学社会科学研究所教授が講演


日本経団連は7月31日、東京・大手町の経団連会館で雇用委員会(鈴木正一郎委員長)を開催し、佐藤博樹・東京大学社会科学研究所教授から「格差と多様化そして新しいキャリア形成」と題する講演を聴取した。続いて、宮川晃・厚生労働省雇用保険課長から、雇用保険三事業の見直しに関する最近の動きについて説明を受けた後、事務局から、若年雇用問題に関連し、(1)若者の人間力を高めるための国民運動の最近の動き(2)3月31日の中野清・厚生労働副大臣からの要請――について報告を行った。佐藤教授の講演要旨は次のとおり。

格差拡大論の問題点の背景には、望ましい働き方は1つであるという価値基準がある。格差とは、「同類のものの間における、価格・資格・等級・水準などの差」であり、比較可能であることが前提となる。体重と身長のように異質なものを、同一の尺度で比較することはできない。
働き方の多様化を異質化ととらえ、正社員と派遣社員の働き方は異質であるとすると、賃金や雇用機会の安定性という同一の尺度を外在的に当てはめ、両者の水準を比較することには意味がないかもしれない。格差に対する異質化とは、望ましい働き方に関する多様な価値基準を認めることである。その上で、多様な働き方それぞれの特質に即した働き方の質の向上に取り組むことが大事である。多様な働き方間の変更ルートの整備も必要である。
また、従来正社員は、同一職業の継続よりも、特定の企業内における継続的なキャリア形成を重視したことから、雇用の安定性は、企業が人事権を持つ代わりに、継続的雇用を保障するといったかたちで図られた。一方、派遣社員は、特定の企業を超えた同一職業における継続的なキャリア形成を望んでおり、彼らにとっての雇用機会の安定性とは、同一職業における派遣先が継続的に提供されることである。働き方の希望も多様化しており、雇用保障のあり方も多元化していくべきである。

格差拡大論の背景にあるもう1つの問題点として、正社員と非正社員というように、二重構造論が起きていることが挙げられる。それにより、「非正社員には能力開発機会がなく、キャリア形成にマイナス」とのラベリングが行われ、非正社員から正社員への転換が阻害されている。しかし、実態として、能力開発の問題は正社員・非正社員いずれにも当てはまる。能力開発に取り組んでいない正社員もいれば、取り組んでいる非正社員もいる。正社員・非正社員にかかわらず、どういう仕事をしてきたかが大事であり、そうした当たり前のことが忘れられていることが問題である。正社員で勤めても、その企業が能力開発に熱心でなければどうしようもない。正社員化すれば問題が解決するわけではない。

【労政第一本部雇用管理担当】
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