日本経団連タイムス No.2826 (2006年8月24日)

社会貢献推進委員会開く

−「新しいコミュニティにおける企業の役割と協働のすすめ」テーマの講演聴取


日本経団連の社会貢献推進委員会(池田弘一委員長)は7月19日に会合を開き、特定非営利活動法人日本NPOセンター常務理事・立教大学社会学部助教授の萩原なつ子氏、特定非営利活動法人ETIC事業統括ディレクターの山内幸治氏から「新しいコミュニティにおける企業の役割と協働のすすめ」をテーマとする講演を聴いた。両氏の講演の要旨は次のとおり。

特定非営利活動法人日本NPOセンター常務理事・立教大学社会学部助教授 荻原氏講演要旨

いまや企業、行政、市民団体(NPG、NPO、NPC)・市民(NPP)が、それぞれが責任を持って参加し、連携しながら公共的な課題を解決していく、参加と協働の時代になってきた。その中でも特に、NPOと企業との協働が注目されている。
NPOは現在、地域社会の担い手として重視されている。地域社会はさまざまな意味で崩壊しつつあり、諸々の事象に対処できないようになってきた。そうした中、かつて地域社会にあった互助精神の担い手として、また地域社会の免疫力を高める存在としてNPOが浮上してきた。さらにNPOには、新しい課題への対応能力を高めることへの期待も寄せられている。
NPOの特性は、先駆性や多元性、人間性、提言性、当事者性、柔軟性、機動性であり、その特性ゆえに行政や企業ができない・しない事業を行っている。と同時に、行政や企業との協働で事業を行う場合もある。

協働とは、異種・異質の組織が、共通の社会的な目的を果たすために、それぞれのリソース(資源や特性)を持ち寄って、対等な立場で協力して共に働くことであると定義づけられる。現在、異なるセクターの協働が必要とされている背景には、社会的課題が多様化しており、1つのセクターでは解決が難しくなっているという事実がある。また、協働によって社会的課題解決が加速化され、効果が最大化されるという相乗効果も指摘されている。
複数のセクターに共通の目的があり、共通の目的をお互いが認識し、目的に向かって協働する意思を持つことによって協働が発生するが、その過程を支えるコミュニケーションが必要である。

企業とNPOとの協働において、企業は資金支援、拠点や人材の提供、発注などを通じて、NPOから現場での情報や、アイデア、人材、ノウハウ、商品開発への提言・助言などを得ることができる。つまり、企業にとって、NPOと協働することから得られる意義の1つには、新しいビジネスチャンスが生まれること、コミュニティ・ビジネスを創出できることが挙げられる。例えば、経済産業省の「環境コミュニティ・ビジネスモデル事業」には、持続的かつ効率的な環境負荷の低減を図ることを目的とした事例が全国から集まっている。企業とNPOとの協働の中で重要なのは、相互が企画の段階からかかわるということである。また、協働の重要な要素の中には「信用支援」がある。これは、企業や行政の後援をもらっていることで、NPOが信用・信頼されるということである。そのためには、企業もNPOもそれぞれが社会において信頼・信用される存在であることが必要である。
また、NPOは特質として提言性を持ち、地域社会の中などにおいて、第三者の立場で批判や提言をしていくモニターの役割を果たしている。この点が協働において重要になってくる。そのためには、NPOの調査能力や、専門性が高いことが要求される。

NPOと企業が協働するのに必要な条件としてはまず、NPOや企業に関する情報収集や、双方の組織の安定性などが重要である。それに加えて、協働事業の目的を明確にすることが求められ、そのためにはお互いの基本的理解促進のための対話、信頼がなければならない。協働は、そこから生まれてくる。
協働の入り口としては、課題の抽出・現状把握を目的とするラウンド・テーブルが考えられる。そうしたラウンド・テーブル開催時には、時にはテーマを設定して論議すること、開催は定期的であること、多様なメンバー構成であることなどに留意する必要がある。

特定非営利活動法人ETIC事業統括ディレクター 山内氏講演要旨

ETICは、社会に対して何かをしたいと思っている若者たちに、チャレンジするさまざまな機会、成長するチャンスを提供する団体である。自ら新しい仕事、新しいサービス、新しい価値を生み出していける起業家型リーダーのうち、「社会起業家」を輩出することで、社会的イノベーションを生み出していきたいというのが団体のミッションである。
社会起業家の定義は、事業性・自立性を強く意識したNPOと、社会的ミッションを強く意識したビジネス、そのどちらかあるいは両方を組み合わせたものを創業・運営している人である。つまり、社会的ミッションと経済的なモデル(事業として成り立つこと)をきちんと両立させることに取り組んでいる起業家を指す。
ETICが支援している社会起業家の例としては、病児の自宅預かり保育を会員制・利用頻度に応じた変動型会費制で実施している「フローレンス」や、こだわりの稲作農家の営業代行として産地直送米の販売を請け負う「おこめナビプロジェクト」、地元の山にある葉を原材料に高齢者を働き手として料理のツマモノを生産する「いろどり」などがある。

なぜいま、社会起業家の育成・支援が求められているのかというと、1つには若者の働き方の視点が大きく変わってきていることが挙げられる。社会のための事業、例えば地域活性化・まちづくりや、教育、文化・伝統・芸術、国際協力、医療・福祉といった分野の事業をやりたいという考えを持っている若者が増加している。
社会起業家の発展段階をイメージしてみると、(1)ニーズ・課題を発見し事業を構想する段階(2)プロジェクトを開始し、モデルを構築するスタート・アップの段階(3)モデルを発見し、組織力の拡充や投資を行っていく成長段階(4)モデルを強化しレバレッジ戦略を展開する発展段階――といった過程を想定できる。この分野で活動する人に特徴的なのは、事業計画のないところから活動をスタートすることである。プロジェクトを始めてからの最初の課題は、どうやってその活動を事業として採算の立つようにするか、経済的モデルを確立していくかである。次の壁は、モデルができてから、それをどう強化するかという問題である。そこには、マネジメント能力がかかわってくる。活動を最大化させていくには、いろいろな人、多様なセクターの人たちと連携していかなければならない。

社会起業家への支援の仕方で大事なことは、金銭の支援が、あまり効果的でないということである。もちろんある程度の金銭は必要だが、マネーキャピタルによる支援には限界があり、むしろソーシャルキャピタルによる支援が必要だと考える。ソーシャルキャピタルによる支援には、まずトラスト・キャピタル(信用の付与)がある。「取引先にA社がある」といったことは、非常に重要である。
ソーシャルキャピタルには、ほかにもナレッジ・キャピタル(知恵の提供)、リレーション・キャピタル(人的ネットワークによる仕事・参画者・支援者の紹介)、メディア・キャピタル(注意を引き付けることで活動を加速)、カルチャー・キャピタル(励ましキャピタル)などがある。人や事業は仕事を通して成長していくので、ステージアップできるような効果的な仕事を、いかにタイミングよく、人的ネットワークによって提供できるかが極めて重要である。
メディアに掲載されるということも非常に重要である。メディアに掲載されることで活動が加速するし、メディアに出て各団体がブランド化されると、支援側に対する信用度が高まる。それによってまたメディアの注目を引くという好循環になる。
社会起業家が勝手に活動を加速できるような環境をいかに提供するか、また、社会起業家の仲間を増やして励ましていけるかが支援の重要なポイントである。

【社会第二本部企業・社会担当】
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