日本経団連タイムス No.2827 (2006年8月31日)

日本経団連自然保護協議会、企業とNGOの交流会開く

−「企業とNGOの協働」をテーマに


日本経団連自然保護協議会(大久保尚武会長)は7月24日、東京・大手町の経団連会館で、企業とNGOとの交流会を開催した。「企業とNGOの協働〜人材・ノウハウをどう生かすか」をテーマとする同交流会では、NGO団体である日本国際民間協力会、富士山クラブ、オイスカが事例を報告したほか、塚本一郎・明治大学経営学部教授の話題提供・司会によるパネルディスカッション、日本経団連自然保護基金・協議会の活動状況報告などが行われた。

NGO団体が事例報告

「インターン制度」を説明

■日本国際民間協力会

事例報告ではまず、日本国際民間協力会の折居徳正事務局長が同会の実施しているインターン制度について説明した。日本国際民間協力会は、途上国の人々の経済的・精神的な自立を図るため、環境保全、有機農業、教育、職業訓練、難民支援などの分野で自立支援プロジェクトを展開しているNGO。同会のインターン制度は大学3年生以上、34歳までを対象に実施しているもので、インターン期間は半年または1年以上。週3日、フルタイム、原則無給でのインターンを行う。インターン生は、日本国際民間協力会の事務処理や広報、モデルファームのマネジメントなどを通じ、仕事のスケジュール管理やチーム・組織での仕事の仕方、外部との折衝、ビジネスマナー・ビジネス文書の作り方、会計処理といった事項を「限界の状況」の中で学ぶことになる。国内でのインターンを終えたあと、本人の希望と実力に応じて、海外の発展途上国での事業地でOJTを行うケースもある。
折居事務局長は、インターン制度実施が日本国際民間協力会にもたらすメリットとして、(1)インターン生が加わることで、組織が常に新しい状態になる(2)潜在能力の高い若者がボランティアで業務に当たるため、監督業務が発生するものの人件費の節約となる(3)インターン生がおのずとモニターの役割を果たすようになるため、組織が健全でオープンなものとなる――の諸点を挙げた。

続いて大学卒業後1年間、日本国際民間協力会でインターンを行い、現在は企業に勤務している桑野孝人氏が2003年のイラン地震の際に現地スタッフとして被災地救援活動を行ったおりの経験などを披露。救援活動を通じて、現地の人と十分に話し合い、現地に適合したやり方を採用することや現地のニーズを的確に把握することの必要性を学んだが、そのことは現在、企業での営業活動を行う中で、顧客とのコミュニケーションを密にしてその意見を取り入れるということに生かされていると語った。その上で桑野氏は、「企業活動で学んだものを、今度はNGOにフィードバックしたい」との抱負を述べた。

NGO活動参加の意義語る

■富士山クラブ

富士山クラブについては、同クラブサポーターの志賀亞之氏が、自身の活動体験に基づき、企業OBや現役企業人が、NGO活動を行うことの意義を語った。富士山クラブは、富士山および富士山麓地域の自然環境を守り、その保護・保全・再生を目的に、富士山トイレ浄化プロジェクトや、富士山環境ごみマップ作成、清掃活動、環境教育などを展開しているNGO。事務局員のうち3名は企業からの出向者である。

志賀氏は、退職後の仲間づくり・社会との接点維持、自然環境問題への関心といった動機から富士山クラブに入会した。同クラブの活動が自身にもたらしたメリットについて志賀氏は、(1)さまざまな人と触れ合うことができ、1つの企業文化に取り込まれていた現役企業人時代とは異なる新たな刺激を受けて、人間的に成長した(2)自然の中でのボランティア活動を行うことで健康が増進した――と述べた。さらに志賀氏は、自分が同クラブと出身企業との「接着剤」となり、出身企業OB多数が同クラブに参加するようになったことや、現役社員・OBがともにボランティア活動に参加するようになったことを紹介。現役企業人がNGOのボランティア活動に参加することの1つのメリットとして、さまざまな地位にある人が現場の仕事を一緒にやることで、社内の風通しがよくなることを挙げた。
志賀氏は、これからのNGOと企業との協働のあり方に関連して、(1)従来はNGOの用意した企画に企業が乗る形が多かったが、今後は企画段階から両者が参画すべきである(2)企業は社内にボランティア志向の人材を養成すべきである(3)企業は社内にNGO紹介窓口を設置し、活動の中身や信頼性に関する情報を社員に提供すべきである――などと提言した。最後に、NGOに歓迎される人材像に言及。NGOで活躍できるのは、一般会員なら「活動に関心・意欲のある人」「世話好きな人」「イベント・お祭り好きな人」「分け隔てなく他人と交歓できる人」「異文化に寛容な人」「フットワークのよい人」「企業で培ったスキル・スペシャリティーを持つ人」、また運営スタッフなら「ボランティア活動に関心と理解のある人」「現場を大切にする人」「事業企画の立案・推進、マネジメントに長けている人」「課題解決改善スキルを持つ人」「多くの一般会員と融和できるバランス感覚を持っている人」であると述べた。

活動現場での人材交流など

■オイスカ

オイスカについては、組織広報部長の田中美津江氏が、国内外の活動現場における企業との協働事例と人材交流について報告した。オイスカは、「地球の未来を守る」という共通テーマで、人類の繁栄と幸福をめざす国際組織。農業を通じた人材育成事業や、農業のできる環境を守る森林保全活動、植林事業充実のための環境教育の活動、コミュニティー・リーダー育成のための訪日研修などを実施しているNGOである。

田中組織広報部長は、45年間にわたるオイスカの活動の中で、当初は企業との協働というと、もっぱら企業からの財政的な支援を受けるということであったが、最近は企業からのボランティア派遣社員を受け入れることも重要な要素になってきたことを紹介。オイスカは支援企業と支援が必要な現場との「接着剤」の役割を果たしていると述べた。その上で、東京海上日動火災保険と協働してタイなどで実施しているマングローブの植林プロジェクト、松下電器産業と協働で実施している学校林活性化活動、日本アイ・ビー・エムと協働して実施している植林活動、本田技研工業と協働して実施している水源林保全活動、サミットと協働で実施している水源林の保全活動と間伐材を使った積み木の児童館への寄贈活動などの事例を紹介した。
田中組織広報部長は企業との協働が長続きするためには、協働活動によって地域開発を通じたふるさとづくりが行われ、そこに支援企業と地元の人たちの喜びが生まれることが重要であると指摘。また、今後の企業との協働作業の可能性の1つとして、海外からの研修生を受け入れて行う農業技術指導の指導者に、比較的年齢の高い層の人材を用いることを挙げた。

「ボーダレス化する企業とNGOとの協働〜クロスセクター型人材の育成に向けて」

―塚本・明治大学教授が講演/パネル討議を展開

パネルディスカッションでは、まず話題提供として明治大学経営学部の塚本一郎教授が「ボーダレス化する企業とNGOとの協働―クロスセクター型人材の育成に向けて」と題する講演を行った。

塚本教授は、最近、世界的にみて企業とNGOとの協働が進んでいると述べ、その背景には、「企業観の変化」「社会課題を解決するNGOの台頭」「キャリア・人材に対する視点の変化」があることを指摘した。このうち「企業観の変化」については、企業の責任とは利益を最大化して株主に還元することであるといった古典的な企業観はいまや、「企業は株主にとどまらず、従業員、消費者、地域コミュニティー、自然環境といった多様なステークホルダーと相互依存関係を持つというステークホルダー的企業観」に取って代わられていると説明。「社会課題を解決するNGOの台頭」については、環境問題など、市場や政府だけでは解決できない社会的課題が深刻化していく中、NGOの役割が重要となるとともに、さまざまなセクターがクロスセクター的に連携して課題解決に当たっていく必要性が増していると語った。また、「キャリア・人材に対する視点の変化」については、企業においてCSRを進めていく上で、企業を越え、外の社会とコミュニケーションをとれる人材が必要とされていること、個人のキャリア観が変化し、キャリアを組織・会社に全面的に依存してしまう従来のあり方から、自分で将来を見通し、展望していくキャリア形成を追求するように変わってきていると説明した。
その上で塚本教授は、これからの企業とNGOとが協働を進めていくには、セクターを越えてコミュニケーションでき、自らの課題を発見・解決する能力を持つクロスセクター型の人材育成が重要になることを強調。企業にとっては、CSR活動推進のためにも、そういった人材が必要になることを改めて指摘した。一方NGOにおいては、活動分野における専門性の高い人材は多いものの経営に関する専門性の高い人材は必ずしも多いとはいえず、NGOの持続可能性を高めるためにも、企業家精神・ビジネスマインドを持った人材の存在が必要とされていると述べた。
塚本教授はこうしたクロスセクター型人材育成のためには、企業とNGOがそのことを目的とした協働を行うことが必要であることを指摘するとともに、社会的な仕組みを構築することも求められているとの考えを示した。

話題提供を受けて、パネルディスカッションが行われ、塚本教授が司会、自然保護協議会企画部会長・トヨタ自動車環境部担当部長の西堤徹氏、松下電器産業社会文化グループ参事の日塔憲夫氏、日本国際民間協力会・富士山クラブ・オイスカの事例報告者らがパネリストを務めた。パネルディスカッションでは、「企業とNGOの交流は人材面ではまだ十分とはいえない。企業においては、まず社員のボランティア参加をどうやって促していくかが課題である」「これから団塊の世代が定年を迎えるが、この世代の企業OB・OGをNGOで活用していくべきである」「企業人のボランティアを持続可能とするためには、楽しいとか、自分が役に立っているということが皮膚感覚で理解できるものとする必要がある。企画の段階から考えて、1人ひとりに合ったものとしていかなければならない」「企業とNGOの協働のためには両者ともブランドを持っていることが必要である」「NGOにとって企業と協働を行うことは、財政の支援を受けることのほかにも、組織の若返り、企業の技術的ノウハウの提供、マネジメント能力の強化といった意義・効果を持つ」「これからのNGOには、ただ良いことをやっているというだけでなく、説明責任が求められる」「企業とNGOとの人的交流を促進することで互いの持つネットワークを共有できるようになる」などの意見が出た。

◇ ◇ ◇

交流会場に設置されたポスター展示コーナーでは、30の団体・企業が日ごろの自然保護活動に関する情報を提供。また、ディスカッション終了後の交流懇親会では、企業・NGO関係者が情報を交換し、親交を深めた。

Copyright © Nippon Keidanren