日本経団連タイムス No.2833 (2006年10月12日)

モレノ米州開発銀行総裁、ヒル・メキシコ財務大臣、バスケス・パナマ運河担当大臣と懇談


日本経団連は9月22日、東京・大手町の経団連会館でモレノ米州開発銀行(IDB)総裁、ヒル・メキシコ財務大臣、バスケス・パナマ運河担当大臣らとの懇談会を開催した。日本経団連からは三木繁光副会長らが出席した。懇談会におけるモレノ総裁、ヒル大臣、バスケス大臣のあいさつ要旨は次のとおり。

東アジア諸国並み成長へ

〈モレノ米州開発銀行総裁あいさつ要旨〉

中南米・カリブ地域の経済状況は非常に好調である。農鉱業商品の価格上昇と低金利を活用し、経済成長率は2004年に約6%、05年には4.5%を達成した。IMFの予測では、06年は4.5%、07年は4.2%の成長が見込まれる。経常収支も黒字であり、インフレは1ケタ台で、財政均衡を達成している。外貨準備高も増加し、中南米・カリブ地域の上位7カ国の外貨準備高は2430億ドルに達している。
海外からの直接投資は600億ドルを超えている。すべての国が対外債務を減らしており、自国通貨建ての借り入れに切り替えが進んでいる。われわれの目標は、東アジア諸国並みの成長を遂げることである。中南米・カリブ地域は未開拓分野が多く残る市場であり、大きな潜在能力を持つ。また、昨今、エネルギーや一次産品の希少性が高まっており、地域の競争優位性が一層高まっている。日本の民間部門にはぜひこの点をビジネス・チャンスとしてとらえてほしい。

多い魅力的市場

中南米・カリブ地域の金融市場には厚みがない。そのために、多くの国民、民間企業、とりわけ中小企業が、金融サービスにアクセスできずにいる。これは日本の金融機関にとってチャンスであることは明確だ。インフラ整備も課題であり、日本の先進的な建設会社にとっては、魅力的だろう。中でもパナマ運河の拡張プロジェクトや、南アメリカ・ガスパイプラインの建設計画には大きな機会がある。
エネルギー市場では、バイオ燃料が話題となっている。ブラジルはこの分野で現在圧倒的な力を有し、生産部門、プラント部門、フレックス燃料自動車技術などでリーダーシップをとっている。アルゼンチンの大豆、コロンビアのヤシ油などにも膨大な潜在力がある。日本企業にもこうしたダイナミックな分野に参加してほしい。
中南米・カリブ地域は農業、鉱業、観光、音楽産業、林産品、炭素固定化・削減技術、バイオテクノロジーなどの分野で、特異なポテンシャルを提供している。
中南米・カリブ地域にとって、日本は以前からアジアの玄関口であった。今後とも協力関係を強化したい。

経済的試練を克服し成果

〈ヒル・メキシコ財務大臣あいさつ要旨〉

メキシコはこの6年間に3回の経済的な試練に遭遇した。その原因として、中国との熾烈な競争と米国の工業生産の落ち込みが挙げられる。試練を克服するために、メキシコの産業は労働集約的な産業から、高付加価値産業へと転換を果たした。
こうした転換は製造業がメキシコの豊富で優秀なエンジニアを活用することによって達成された。

経済は活況呈す

06年のメキシコのGDPは、8000億ドルを超え、中南米・カリブ地域で最大となるだろう。メキシコは日本、イスラエル、カナダ、米国、EU、中米諸国とFTAを締結している。平均関税率は2%で、物流設備、とりわけ港湾施設の効率化に取り組み、大きな成果を上げている。06年の輸出額は2500億ドルと見込まれる。そのうち石油比率は15%に過ぎない。
ここ数年の民間部門のリストラや、建設業を中心とした国内の公共事業の活性化、米国経済の回復に伴う製造部門の成長などによって、メキシコ経済は活況を呈している。インフレ率も史上最低レベルとなっている。資本市場も整備され、各種債券を発行できるようになった。間もなく30年国債が発行されるため、30年の基準金利が決まる。流動性が高まるなど民間部門にも良い影響を及ぼす。かつてメキシコ企業はドル建ての借り入れに依存せざるを得なかったが、今後はペソ建てに切り替えることができる。

住宅市場は活況を呈しており、05年は75万戸の新規着工が見込まれる。経済成長率は04年に4.2%、05年に3.5%を記録し、06年は4.5%と予測される。経済を抜本的に転換することによって、メキシコは米国経済が低迷しても、それに耐え得る強靭さを身に付けた。
メキシコの自動車生産は年産200万台である。06年1〜8月の雇用は70万人増えた。住宅ローンの貸し付けは83%以上、小売売り上げは16%増加した。インフレ率は約3%である。
メキシコは対外債務の期限前返済を実施しており、対外債務の対GDP比率は5%程度まで下がってきた。外貨準備高は660億ドル、カントリーリスクは109ポイントと史上最低のレベルまで改善している。公的債務の償還期間を延長し、外貨建てをペソ建てに切り替えることで、金利や為替変動に対する感応度も縮小している。

物流面で日本経済に貢献

〈バスケス・パナマ運河担当大臣あいさつ要旨〉

パナマのみならず中南米・カリブ地域は、日本との経済関係を強化したいと考えている。
パナマでは04年9月にトリホ新政権が誕生し、まず財政再建に取り組み、2年間で成果を上げた。財政赤字は06年には対GDP比2.5%に減るだろう。経済成長を犠牲にすることなく、財政赤字を減らしている。海外からの直接投資は、パナマ経済のダイナミズムを持続させ、06年の経済成長率は6%以上を見込んでいる。04年に14%だった失業率は、06年3月には8.9%に低下した。パナマの経済規模は160億ドルであるが、8億8000万ドルもの大型の公共投資を実施している。パナマ経済の75%はサービス業が占め、06年の農業輸出は10億ドルを超えると予想されている。
国としての規模は小さいが、パナマは地理的な要因により、貿易と通信で中心的な役割を果たしてきた。パナマの旅客部門の発着航空便数は多く、電気通信も整備されているが、なんといってもパナマ運河が重要である。運河自体は政府の所管であるが、付帯施設は政府と民間の合弁、あるいは民間によって運営されている。06年度末のパナマの外国直接投資受け入れ総額は30億ドルに達すると予想されている。
パナマ政府はパナマ運河拡張計画を決定した。総額52億ドルに上る拡張計画である。貨物量の増大に対応するため、より大型の船舶が通行できるように、3本目の運河の建設も計画されている。

重要な物流拠点

パナマ運河は最大の外貨獲得源であるが、パナマのみならず、国際貿易にとって不可欠なインフラである。例えば、チリからの輸出の40%、ペルーについてはそれ以上が、パナマ運河を経由している。日本の船舶はパナマにとって重要な顧客であり、物流面で日本経済に貢献していると自負している。パナマは日本の原子力発電用燃料の中継地でもある。パナマ運河拡張計画によって、今後10年間、少なくとも7%の経済成長率が維持され、周辺プロジェクトを合わせると、年間15億ドル以上の投資が行われるだろう。同計画により、パナマは中南米・カリブ地域で最も重要な物流拠点になる。日本企業にはぜひともこの機会をとらえてもらいたい。

【国際第二本部中南米・中東・アフリカ担当】
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