日本経団連タイムス No.2833 (2006年10月12日)

第4回社史フォーラムを開催/社史編纂担当者など約100名が参加

−社史編纂に必要な史料や写真の収集・整理・活用法などを講演で学ぶ


日本経団連は9月19日、東京・大手町の経団連会館で「第4回社史フォーラム」を開催、全国から社史編纂担当者など約100名が参加し、社史編纂に必要な史料や写真の収集・整理・活用法などについて学んだ。

■「作家における社史活用」

同フォーラムでは、はじめに「作家における社史活用」と題し、作家でみずほ証券インベストメントバンキングプロダクツグループ制度・ニュービジネス担当部長の北康利氏が講演した。北氏は、『白洲次郎 占領を背負った男』の著者として最近脚光を浴びている。講演の中で北氏は、ノンフィクション小説を書く際には社史が貴重な資料の1つとなることを指摘。今後、自身のライフワークである伝記小説を執筆していく際にも、社史を大いに活用していきたいと述べた。また北氏は、社史にはコーポレート・アイデンティティーを示す、従業員のモラールアップを図る、企業への忠誠心を醸成するといった役割があるとし、社史を読んだ若い社員が、「この会社に入ってよかった。先輩たちは偉大だ」と感じられるように、少なくとも創業者や中興の祖の人物描写(伝記の部分)には力を入れ、読んで面白いものにすることが必要であるとの考えを示した。

このほかにも北氏は作家の立場からの社史編纂に対する要望として、(1)人名索引だけでなく、事項索引も充実させ、利用者の多様なニーズに応えられるようにする(2)データベース化・索引の電子化を図る(3)新たに発行する社史では、既刊社史から引用した部分・重複部分と、書き下ろす部分がはっきりわかるようにしておく――ことなどを挙げた。
さらに北氏は社史編纂のための資料収集の方法として社内報の活用を提案。社内報の中に創業者や中興の祖に関するエピソードなどを集めて掲載するコーナーを設けておき、常時、新しい資料・情報を求めるシステムをつくっておくとよいと述べた。

■「社史の編纂と史料について」

続いて三菱商事総務部社史担当の穎川徳武氏が「社史の編纂と史料について」と題して講演、『三菱商事社史』(1986年刊)と『三菱商事五十年史』(現在編纂中)の編纂経験から学んだ社史編纂の要諦を語った。
この中で穎川氏は史料の収集・整理・活用法などに関連し、『三菱商事社史』の編纂に当たっては、旧社員名簿によってOBにアンケートをとり、それぞれの現役時代の勤務地・仕事の内容を調査、それに基づき、勤務地などを同じくしたOB数人で座談会を開くという方法が情報・資料の収集の上で大いに役立ったことを披露した。社史編纂に当たって収集した資料約1万7000点は、社史編纂が終わってから分類整理し、タイトル・キーワードをつけてパソコンに入力して、データベースを作成、現在も有効に活用していると述べた。社史を出した後、次の社史編纂のためにやっておくべき資料収集としては、各部署に人事組織関連事項や、活動に関する特記事項、業界動向を記載した年表をつくってもらい、社史編纂室で集めておくことを推奨。また、会社の経営方針、制度変更などが掲載されている社内報も貴重な資料となると語った。

このほか穎川氏は、(1)社史編纂はまず粗年表作成から着手する(2)会社の失敗例や撤退例、不祥事などは新聞・雑誌に載った程度は正直に書く。書かないと独り善がりの社史になる。そうした事件は若い人たちに教訓になる事項をたくさん含んでいる(3)社史の目的は、第1には企業がこれまで歩んできた足跡を記録して後輩の参考に供すること、第2には企業の活動の実態を世の中に知ってもらい、理解を深めてもらうことにある(4)編纂者が心がけることは「事実を正確な典拠にのっとって書く。文は美辞麗句を避け、余計なことをくどくど書かず、誇らず、他を害せず、淡々として書き進むうちにも滋味ある文章を書く」ことである――などと述べた。

■「キヤノンの写真アーカイブについて―写真史資料の制作・収集・整理・保存・活用の現状」

続いてキヤノンコーポレートコミュニケーションセンターキヤノン史アーカイブ室室長の奥村健治氏が登壇、「キヤノンの写真アーカイブについて―写真史資料の制作・収集・整理・保存・活用の現状」と題し講演した。
キヤノンの写真アーカイブには創業以来の製品や行事などの写真がデジタル化されて蓄えられており、社員や関連会社の社員が必要な写真をフリーワード検索などで探し出し、ダウンロードできる。24時間対応であるため、時差のある海外でもいつでも使うことができる。写真アーカイブの目的について奥村氏は、(1)社員が誰でも使えるようにする(2)写真資料の保存だけでなく、活用を念頭に置く(3)創業当時からの経営の軌跡をできるだけ細かに残す(4)人名・イベント名でも呼び出せるわかりやすいものにする(5)写真の永久保存を確実にする――ことであると説明。写真アーカイブの必要条件については、(1)記録が正確でなければならないこと(2)次世代に必要なものを伝えていくこと(3)情報量が多いこと――を挙げるとともに、写真にはその内容を説明する文字情報が絶対に必要であることを指摘した。

写真アーカイブのメリットについては、(1)利用者が本社に出向く必要がない(2)写真検索の時間が短縮される(3)事務手続きが簡素化される(4)24時間稼動している(5)管理事務や事務経費、人件費などが大幅に節減できる(6)利用率の高いもの、貴重性のある写真が把握でき、これから撮って加えていく写真に反映できる(7)一元化されたアーカイブから統一性のある制作物ができる(8)写真を社内制作するため、時間の自由度が大きく、版権の問題もうるさく考える必要がない(9)守秘管理がうまくいく(10)実績からみると利用率は10倍に、コストは3分の1になった――ことを挙げる一方、今後の課題としては、(1)海外のグループ会社関係の写真の充実(2)英語化への十分な対応(3)写真のアップ・トゥー・デートの徹底(4)動画への対応(5)デジタル化できない資料(製品の現物など)を検索可能とするためのデータ上の処理(6)現在2つあるアーカイブ(写真アーカイブ、史料アーカイブ)の合体――などを指摘した。

■「社史および史資料の活用―執筆者の立場から」

フォーラムでは最後に東京大学社会科学研究所教授の橘川武郎氏が「社史および史資料の活用―執筆者の立場から」と題し講演、企業外の社史執筆者・学者としての視点から社史のあり方を述べた。
橘川氏ははじめに、社史には「誰も読む人などいない」「カネと時間をかけるに値しない」「内容に信用がおけない」といった誤解があると指摘。それぞれの誤解について、「社史は必要な部分はよく読まれ、耐用年数が長い」「社史にどれくらいカネと時間をかけるべきかを検討した上で、メリットとコストの最適な均衡を求めるべきであり、コスト節約のためには、外部執筆者を雇う、アウトソーシングするという方法がある」「内容に信用がおけない社史をつくってはいけない。本業で提供する製品・サービスと同レベルの信頼性を持ったものをつくるべきだ」との考えを示した。
また橘川氏は、社史は企業の競争力強化につながるものでなければならないとした上で、社史の役割には、「広報=外へ向けての役割」「教育=内へ向けての役割」「学習=未来へ向けての役割」の3つがあると述べた。このうち広報については、対マーケット、対ステークホルダー、対第3者という3つの側面があることを指摘、優秀な企業ほど優れた社史をつくっており、企業は自己の業界の中で最もよい社史をつくることをめざすべきだとの考えを示した。教育については、企業文化を継承し、危機に直面したときにその企業がどうやって突破していったのかを教えるのが社史であるとし、学習については、社史は企業の改革の筋道を指し示すものであるとした。

良い社史の備えるべき要件としては、真実、ストーリー性、使いやすさの3つを提示。真実については、(1)虚偽はもちろん不可(2)隠蔽、一面的強調、憶測に注意すべき(3)誤記のないようにダブル・トリプルのチェックが必要――であるとの考えを、ストーリー性については、(1)ストーリーがなければ歴史ではない(2)同業他社と比較して特長を明確にし、会社の時期区分をはっきりさせることからストーリーがみえてくる(3)ストーリーは能動体で書く(4)プロセスに光を当てた記述をする――との考えを、使いやすさについては、(1)ビジュアル面の充実も意味はあるが、それよりも使いやすさ、中身のよさ(2)事項、人名、組織名など多様な検索ができる索引(3)社史デジタルアーカイブの構築を考えても検索機能には相当な力を注ぐこと――が重要であるとの考えを、それぞれ示した。こうした社史の要件を担保する仕組みとして橘川氏は、トップの決断と全社的バックアップ、社長にも物申せるようなベテランや将来トップを担える力を持った若手の編纂者の起用、仮説を出せるような外部ライターの起用、編纂者・執筆者・編集者の真摯な意見交換などを挙げた。
社史および史資料の活用に関しては、デジタル化=企業ホームページとのリンク、データベースの作成、社内研修での使用を指摘した。

最後に橘川氏は社史は会社の「顔」であり、企業文化を映す「鏡」であり、イノベーションをもたらす「泉」であり、企業改革への道筋を照らす「灯」であり、コーポレート・コミュニケーションズの「要」であると述べ、社史は戦略的に活用することによって、企業間競争に勝ち抜くための「武器」となると結論付けた。

フォーラムではこのほか、参加者と講演者の間で活発な質疑応答が行われた。

【社会第一本部情報メディア担当】
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