日本経団連タイムス No.2834 (2006年10月19日)

第14回中小企業委員会を開催

−「日本の中小企業の強みと地域イノベーションの可能性」/三井・横浜国立大学大学院教授から聴取


06年度新検討テーマを承認

日本経団連は2日、第14回中小企業委員会(指田禎一委員長)を開催し、三井逸友・横浜国立大学大学院教授から「日本の中小企業の強みと地域イノベーションの可能性」と題する講演を聴取するとともに、06年度の同委員会の新検討テーマと中期事業計画案を審議した。審議の結果、新検討テーマは「中小企業のイノベーション(技術革新)と現場力の強化」に決定。中期事業計画案も承認された。

講演では、三井教授が、(1)世界的な中小企業への注目の高まりと地域産業論の復権、地域イノベーションシステム論の重要性(2)EUの取り組み(3)日本の地域産業支援政策とその転換(4)地域の中小企業による産学連携の重要性と課題――等について持論を展開した。

三井教授は、EUが2000年に、「ヨーロッパ小企業憲章」(小企業とあるが、現実的には中小企業の政策規範)を定め、「小企業は欧州経済のバックボーン、雇用の源であり、ビジネスアイデアを育てる大地である」との基本理念の下、「憲章」の理念とアクションプランに合意した加盟国政府にその実行を義務付けるとともに、毎年の実施状況を評価していることを紹介。
さらに、OECDも「ヨーロッパ小企業憲章」の制定と同時期に「ボローニャ中小企業政策憲章」を採択し、これが世界的な中小企業政策の枠組みとなりつつあることを指摘した。
こうした中、グローバリゼーションの進展とは裏腹に、世界的には「地域経済論」「地域産業集積論」「地域主義」が改めて注目されていると指摘。M・ポーター氏の「産業クラスター論」をはじめとして、知識基盤経済下では、地域こそが新しい創造と革新(イノベーション)の主体であるとの主張が世界的に主流であり、地域でつくられるクラスターが注目され、それに伴う政策が実施されている状況を説明した。

一方、日本における地域産業支援策については、中小企業の競争力が、日本の工業化、近代化を支えてきたが、近年、地域産業は大きな壁に直面していることを指摘するとともに、そうした中で、各支援政策が成果を上げていないと現状を分析。こうした反省から、04年に産構審新成長政策部会が「新産業創造戦略」を立案し、「競争力、雇用、地域再生の同時達成」の好循環をめざしていること、さらに経済産業省が01年度から「産業クラスター計画」を、文部科学省も「知的クラスター創成事業」を推進していること等を紹介し、世界的に注目されている地域イノベーションというキーワードが、日本の政策にもようやく本格的に取り入れられてきた現状を紹介した。
さらに、従来の中小企業支援政策も成果が上がっていないことから、各種支援制度を統合・再編し、05年に中小企業新事業活動促進法に一本化したこと、同法が、基本的には地域をベースとした新事業活動、広義のイノベーションの積極的推進を柱とし、「経営革新」「新連携」が新たな政策的ターゲットとなっていることなどを解説した。

また、地域の中小企業による産学連携のイノベーション創出に与える影響と可能性については、中小企業の産学連携の壁として、(1)大学等の研究の水準と中小企業の課題・ニーズのギャップがあり過ぎる(2)情報、仲介機関、コーディネーターの不足(3)大学等研究者の中小企業の現状に対する理解不足(4)人的つながりがなく、信頼関係も浅い(5)研究資金や事業化資金の不足――等を指摘。
その上で、産学連携の成功に必要なものとして、(1)企業の体力(2)企業側のリーダーシップ(3)「大学等に何を求めるか」の限定(4)人的交流とコミュニケーション、時間をかけたコミットメント(5)研究費用の意義と用途への割り切り(6)公的補助金の最大限の活用(7)企業自体が保持する力、提供できるもの(固有技術、生産技術、技能人材、販売力等)、ニーズの明確化(8)売れる仕組みの構築――等を挙げた。

【労政第一本部企画担当】
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