日本経団連タイムス No.2836 (2006年11月9日)

地域活性化委員会開く

−「人口減少社会における地域活性化戦略」で講演を聴取


日本経団連の地域活性化委員会(辻井昭雄委員長)は10月17日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催、大西隆・東京大学先端科学技術研究センター教授から「人口減少社会における地域活性化戦略」について講演を聴取するとともに、同委員会の中期事業計画について審議した。大西教授の講演要旨は次のとおり。

わが国は2005年から人口減少社会に突入した。国立社会保障・人口問題研究所によると、2100年には4600万人まで減少すると予測されている。現在、日本の合計特殊出生率は1.25まで低下している。北欧諸国の例をみると、政府の政策、社会の仕組み、人々の価値観により出生率は変化することから、日本でも少子化対策によって回復する可能性がある。しかし、出生率が回復しても人口減少のトレンドは変わらないため、少なくとも30〜40年は人口減少と向き合う必要がある。
地域活性化をめぐる最近の動向をみると、05年に「国土総合開発法」が改正され、「国土形成計画法」となった。目的を「国土の利用・整備・保全」とし、開発志向の色彩を弱めて、定住圏や地方の充実に重きを置いた第3全総(第3次全国総合開発計画)の流れを継続させた。今後、「広域地方計画」が順次策定されることになるが、責任の所在を明確にして計画の実現可能性を向上させることはもとより、道州制の議論と併せて議論することが必要となる。

地域を活性化させるための視点は、(1)産業の振興(2)美しいまちづくり(3)田園の還流(4)公共施設の運営(5)分権と参加の仕組みづくり――にある。
産業の振興については、産業を製造業、大学、農業などの「域外市場産業」とサービス、小売業などの「域内市場産業」の2つに区分すると、域内産業を充実させ、暮らしやすい地域を形成することを前提とし、点在する地場産業を域外の需要にこたえてサービスや製品を提供する産業に育成することが必要である。
美しいまちづくりについては、人々の生活行動に景観を保全する意識が希薄化しているため、市民ぐるみのまちづくり運動が必要である。例えば、国立市(東京都)は東京商科大学(現在の一橋大学)を誘致するとともに、緑地やオープンスペースを併せ持つ田園都市として開発された。しかし、最近は敷地が分割されて住宅が乱立するだけでなく、放置自転車が散乱するなど景観が乱れている。
田園の還流については、オープンスペースの再評価や自然環境に近い人工的な環境を創造することが大切である。東京・多摩地域で畑地や河岸緑地などが都市の中の和み空間として見直された。また、越谷市(埼玉県)のレークタウンでヒートアイランド現象を軽減するために、人工的な水辺環境の整備が行われている。
公共施設の運営については、例えばアメリカのポートランドのLRT(次世代型路面電車システム)では、受益者負担という発想を取り入れ、税金や補助金等を運営資金に引き当てている。弱者の足である公共交通については、日本のように、運賃のみで運営するべきでない。
分権と参加の仕組みについては、地方分権を実現するためには、国のマニュアルに沿った運営でなく、独自のルール(条例)を金沢市(石川県)のように積極的につくることが重要である。参加の形態は政策によって都市を選ぶ「足による投票」から、NPO法人などを活用し、自ら公益事業を実現する「知恵の実現」に至る4段階に分けられる。NPO活動では財源確保の問題が内在しているが、最近では税金の一部を割り当てる自治体も増加している。

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人口減少化の中で地域を活性化させるためには、まず、人口が減少することを前向きにとらえる姿勢が必要となる。その上で、オープンスペースを有効活用し、必要な公共サービスを確保、さらには、市民がまちづくりに積極的に参加できる環境を整えることが重要となる。

【労政第一本部企画担当】
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