日本経団連タイムス No.2838 (2006年11月23日)

尾身財務相と懇談


日本経団連は8日、都内のホテルで尾身幸次財務大臣はじめ、財務省首脳との意見交換会を開催した。財務省からは尾身大臣、田中和徳副大臣、富田茂之副大臣、江崎洋一郎大臣政務官、椎名一保大臣政務官、藤井秀人事務次官らが、日本経団連からは御手洗冨士夫会長、西室泰三評議員会議長、氏家純一評議員会副議長、各副会長らが出席。今後の財政運営のあり方などをめぐり、意見を交換した。

開会あいさつにおいて御手洗会長は、わが国経済が、政府の構造改革と民間の自助努力の相乗効果により力強さを取り戻しつつある中で、成長路線を明確にする必要があると指摘。「成長力の維持・強化と財政の健全化を車の両輪として進め、国民負担を最小化していくことが重要」と述べた。

続いてあいさつした尾身大臣は、人口減少や国際競争の激化といった構造変化に対応して、国の力を強くしていく必要があると言及。さらに、「経済がグローバル化する中で、企業が国を選ぶ時代になっている。企業にとって魅力的な国とするため、税制などの制度について、国際的なイコールフッティングを確保することが大切である」との認識を示した。
わが国財政の現状については、「世界で最悪の水準の債務残高を抱える一方、国民負担率は世界で実質的に最低の水準にとどまっている」と説明。その上で、財政再建を進める際には、「経済成長と財政再建を両立させていくことが重要である」と述べた。また、地方財政について、国と地方の財政事情の違い、地方自治体間の財政状況の格差が大きいことを指摘し、「この格差是正の問題についてきちんと取り組む必要がある」と述べた。
最後に、来年度予算編成に向けて、「財政再建の重要性に鑑み、従来の改革努力を継続し、徹底した歳出削減に取り組む」との決意を示した。

社会保障、税制などで意見交換

具体的な論点をめぐっては、日本経団連側から、まず社会保障について、「給付の伸びを経済成長に見合った、身の丈に合ったものとするため、国民の自助・自立を基本精神に社会保障制度を改革し続けることが重要」と指摘した上で、「改革の基盤として、情報通信技術の活用による効率化はもちろん、社会保障番号など、社会保障と税を通じた共通の認証システムの整備も必要」と述べた。
続いて税制について、「経済成長を確固たるものとするためにも、来年度税制改正では、法人実効税率の引き下げや減価償却制度の見直し等に取り組むべき」「国際的な事業展開を支えるため、移転価格税制の改善は不可欠」と述べた。
さらに、イノベーションの創出は科学技術政策が基点であるとの観点から、科学技術基本計画の投資目標額の達成をめざした政府研究開発投資の拡張や、戦略重点科学技術における府省の枠を超えた一貫した施策の推進の必要性を主張した。
少子化対策については、「企業による両立支援の取り組みを広げるため、先駆的企業や中小企業が利用しやすい税財政上の支援措置など、政策的なインセンティブが必要」「子育て世帯に対する経済的支援は、所得税の扶養控除と予算措置の児童手当を税額控除方式に一本化するなど、効率化や、真に支援が必要な世帯への手厚い支援を進めるべき」と説明した。

これらの意見を受けて財務省側は、社会保障制度について、「高齢化が進む中で、制度の持続可能性確保のためには合理化が必要。なかなか難しいことだが、国民の理解を得て取り組んでいきたい」とした上で、(1)年金制度については、今後とも人口や経済の長期の趨勢を見極めつつ、制度の安定性や公平性の観点から議論を進めていく(2)医療については、本年度の制度改革後も給付費が増加することが見込まれており、日本経団連からの指摘も含めて改革を行っていく(3)社会保障番号については、コスト面の検討とともに、個人情報保護のあり方について国民的な議論が不可欠――と応えた。
税制については、「国際的なイコールフッティングの確保は重要であり、このような面でわが国がハンディキャップを負わないようにしたい」「移転価格税制の執行については、事実認定に係る納税側と国税当局の間における認識の違いが起こらないよう、透明性の高いものにしていきたい」と述べた。
科学技術政策については、わが国が成長を維持するためには振興が必要である一方、来年度予算は全体として厳しい姿とならざるを得ず、予算の全体像とも整合性をとりつつ、真に必要な経費の確保を図っていきたい、と応えた。
少子化対策については、20年、30年先の財政再建のためにもしっかりとやらなければならない課題であると述べるとともに、「両立支援に取り組む企業への支援については、来年度予算編成や税制改正のプロセスの中で検討したい。子育て世帯に対する経済的支援については、これまでの取り組みの効果を十分に検証した上、扶養控除、児童手当といった政策手段相互の関係も踏まえ、必要な財源の確保と併せて、真に効果的な施策を検討する」と説明した。

【経済第一本部経済政策担当】
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