日本経団連タイムス No.2841 (2007年1月1日)

財政制度委員会開く

−経済成長と財政健全化の両立へ/東京大学大学院・吉川教授から聴取


日本経団連の財政制度委員会(氏家純一委員長)は12月7日、東京・大手町の経団連会館で、吉川洋・東京大学大学院経済学研究科教授から、「経済成長と財政健全化の両立に向けて」についての説明を聴き、その後、財政制度委員会の意見書案についての審議を行った。

吉川教授は、財政再建の最終ゴールは何かという点について、「プライマリーバランスの均衡は通過点であり、政府債務残高対GDP比(デットGDP比)を発散させないことを目標とすべきである」と指摘し、「デットGDP比60%以下を基準としているEU諸国に対し、日本のそれは現在約150%である。日本のデットGDP比は上昇し続けており、このまま放置すれば財政破綻につながる」と述べた。その上で、「デットGDP比を下げるためにも、まずはプライマリーバランスを均衡させることが必要である」と説明。さらに、成長率と金利の関係について、「中長期的には成長率よりも金利の方が高くなると考えるのが通常であり、その場合、プライマリーバランスを均衡させるだけでは不十分であり、さらなる黒字化をめざす必要がある」と述べた。

財政再建のシナリオについては、「財政再建に向けたシナリオは3期に分かれており、第1期は小泉内閣の時代、第2期は2007〜2011年度の5年間、第3期は2012年度〜2010年代中葉である。第2期までは数字を入れた具体的な議論が進んでいるが、第3期についてはほとんど議論が進んでいない」と述べた。また、プライマリーバランスを均衡させるための方針として、「16.5兆円とされる要対応額を埋めるために、まずはできる限りの歳出カットと自然増収で対応し、それでも不足する場合には増税を検討すべきであるというのが政府の方針だ」と述べた。さらに、プライマリーバランスの黒字化を図る上で、社会保障関係費の伸びをいかに抑制するかがポイントであると指摘し、「日本の皆保険制度を維持するためにも、医療保険改革を行うことが重要である。保険免責制度などを通して、大きなリスクはみんなで支え合い、小さなリスクは個別に負担するという考え方をとるべきである」と述べた。

財政再建と経済成長の関係については、「安倍内閣の『成長なくして財政再建なし』とのスローガンは正しい。ただし、経済成長は財政再建の必要条件であるが、十分条件ではない。すなわち経済成長したからといって自動的に財政再建が達成できるわけではない」と説明。その上で、「景気が悪い時には財政再建のペースを緩めるべきであるが、それを可能にするためにも逆に景気のよい時は、財政再建のペースを速めるべきである」と述べた。

今後の労働力人口減少については、「高度成長期を含めたこれまでの日本の経済成長において、GDP伸び率における労働力の寄与度は小さい。それよりも、資本蓄積や技術進歩の方が重要である。日本経済の潜在成長率は、2%程度はあると考えられる」と述べた。

最後に、道路特定財源の一般財源化について、「税金を負担している人は道路を使い税金を払っている人だと通常考えられているようだが、税の転嫁を考えれば、ガソリンにかかる税金は最終的に直接税を払っている人だけでなく国民全体が負担しているともいえる。従って税収を道路建設以外の一般的な目的に使うことには合理性がある」と指摘した。

【経済第一本部経済政策担当】
Copyright © Nippon Keidanren