日本経団連タイムス No.2845 (2007年2月1日)

第109回日本経団連労使フォーラム

−パネル討論「多様な働き方をめぐって」


1月11、12日に行われた「第109回日本経団連労使フォーラム」2日目の企業トップによるパネル討論では、法政大学大学院教授の藤村博之氏をコーディネーターに、キヤノンの山崎啓二郎取締役人事本部長、資生堂の大矢和子執行役員企業文化部長、松下電器産業の福島伸一常務取締役が「多様な働き方をめぐって」をテーマに討議を行った。

イノベーション引き起こす源泉/藤村氏

まず、コーディネーターの藤村氏から、「多様な働き方」と企業の競争力強化の関係について説明があった後、各パネリストから自社の取り組みと課題について発言があった。藤村氏は、社会の変化をとらえ、企業がそれに対応していく必要が生じている中で、ダイバーシティ・マネジメントの重要性が増していると強調。多様な働き方は、さまざまな価値観をもった従業員同士のぶつかり合いの中から新しいものを生み出していくという、まさにイノベーションを引き起こす力の源泉となると説明した。また、多様な働き方を考えるに当たっては、どのような形で実現し、いかに企業の成長に結び付けていくかという視点が大切であるとの見解を述べた。各パネリストの主な発言概要は次のとおり。

緊張感と信頼感の均衡図る/山崎氏

キヤノンでは1996年から経営革新活動を開始、事業の選択と集中、財務体質の強化、個別最適から全体最適への意識改革に始まり、現在、さらなる成長をめざして人材活性化と生産性向上に取り組んでいる。ここでは、永久革新を持続させるエネルギーである「緊張感」と「信頼感」をどうバランスさせていくかが課題となっている。「緊張感」とは実力主義、社員同士の切磋琢磨、部門ごとの競争などであり、「信頼感」とは人間性尊重、機会の平等と結果の公平・公正である。社員が自発的に愛社精神を持ち、価値観を共有・賞賛し、共感を持って仕事をするというのは簡単ではないが、緊張感と信頼感がバランスすることで社員にやる気と知恵が出て、自らの役割を認識するようになる。その上で、明確な目標の発信と正確な現状認識を常に心掛け、目標を実現するために何をしたらよいかを考えていく。現在の姿から、将来こうしたいという姿を全社員に的確に伝え、全社員が目標を理解し、それに向かってスピード感をもって臨むことが重要である。
もう1つ重要なのは労使関係の健全性であり、常にこれを意識している。組合としっかり議論して、会社の情報は意識して労働組合に流すようにしている。またキヤノンでは、実力終身雇用(実力主義、終身雇用)を標榜しているが、これは「1人ひとりがそのために何をしたらよいか」という社員へのメッセージである。キヤノンでは、働き方の問題というよりも、集中して全体最適に向けてベクトル合わせを行い、価値を共有して目標に向かっていくということに主眼を置いている。

男女共同参画の仕組み形成/大矢氏

資生堂は、従業員数の7割を女性が占めており、多様な働き方の重要性は高い。多様な働き方を実現する取り組みは、当初は女性支援という形でスタートし、その後男女共同参画の仕組みづくりということで推進しているが、制度自体は整備されており今後運用面で浸透させていくことが課題となっている。この10数年の取り組みの結果、女性の満足度の向上、女性管理職比率も高まっているなどの成果が現れている。
男女共同参画においてめざすものは、若手・女性の経営参画の加速と社員のワーク・ライフ・バランスの2つである。経営参画の促進に当たっては、リーダーとなる人材を育成するとともに、女性リーダー比率目標を設定して推進している。一方、ワーク・ライフ・バランスの実現は、「仕事と仕事以外の個人生活をバランスよく両立させることにより、個人の幸せと企業の成長を同時に達成する」というコンセプトで推進している。社長をトップに男女共同参画部会を設置し、管理職のほか現場の意見を取り入れるために現場の担当者が参加し、社内風土の醸成、働き方の見直し、仕事と育児の両立支援に関する諸活動を行っている。

基本的な考え方は、「仕事の価値創造力・生産性を高めるために、メリハリをつけて働き、個人の時間を創出し、地域・家庭・社会など多様な価値観に触れ、多様な価値観を取り込んで仕事に生かし、仕事の価値創造力・生産性を高める」という繰り返しによって、社員の成長と会社の業績アップを両立するものである。また、実現のためには働き方の見直しも必須となる。
実施事例としては、育児休業の取得が進まなかった男性社員が取得しやすいように、2週間以内の期間で有給の「短期育児休業」を取り入れた結果、男性取得者が16名となった。取得した男性からは、「実際に子育てすることで新たな価値観を持つことができた」との声が聞かれ、成果を実感している。また、専門職である美容職社員に対し育児時間取得期間の代替要員制度を導入、顧客満足度アップ、優秀な人材の確保にも役立っている。

組織構成する人材を多様化/福島氏

松下電器産業では、グローバル競争が加速する中、2001年に社長の強いリーダーシップの下、全社で経営計画を策定。「破壊」と「創造」をキーワードとして、全社員一丸となって経営改革に取り組んできた。
組織マネジメントがめざすものは、個々人がPDCAサイクルを回し、自己実現を果たし、お客様本位のよりスピード感のある会社に変えていくことである。同時に、マーケットが多様化する中、組織を構成する「人」についても多様化をめざして取り組んだ。男性やベテラン、日本人中心から、女性や若手、外国人の登用を拡大し、性別、年齢、国籍にかかわらず多様な人材が世界中で活躍できる会社をめざして、変化対応力の強い競争力あるハイブリッドな組織とするために、多様性推進本部の設置へと経営活動を発展、深化させてきた。特に女性の活用については、より経営参画を求めるという社長の意向から、10数名の女性メンバーを集め議論した。また、役職登用の若返りを図ったほか、経営の現地化を推進した結果、現在海外現地法人の30%で現地の方が社長になっている。

人材の多様化を進めると同時に働き方の多様化を進めるため、1年前に社長直轄のe―Work推進室を新設した。主な役割は、(1)優秀で多様な人材の活用(2)ワーク・ライフ・バランスの実現による従業員の働き方と満足度の向上(3)男女共同参画や少子・高齢化など社会構造変化への対応――であり、社会、企業、従業員の満足の実現と生産性向上をめざしている。まず2006年度をチャレンジ推進の年として、ITを活用した在宅勤務とモバイル勤務を重点的に推進している。また、ワーク・ライフ・バランスを積極的に支援していくため、労働組合とも積極的に協議を行っている。松下電器産業では現在、3年間の中期経営計画に取り組んでいるが、海外での成長、収益の増大を達成するためグローバルな人づくり、強い現場の構築が必須となる。個人は仕事を通じて自己実現を図り成長する、企業は社員の貢献により成長するという、企業と個人のWin―Winの関係を構築していきたい。

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