日本経団連タイムス No.2846 (2007年2月8日)

第109回日本経団連労使フォーラム

−「今次労使交渉に臨む方針」/企業労務担当役員講演


1月11、12日に行われた「第109回日本経団連労使フォーラム」2日目の企業労務担当役員講演では、トヨタ自動車の小澤哲常務役員と日立製作所の河西晋二郎執行役常務が、「今次労使交渉に臨む方針」について、それぞれ説明した。

競争力強化に向け話し合い/小澤氏

トヨタ自動車の小澤氏はまず、同社を取り巻く競争環境として、(1)原油価格、ガソリン価格が上昇する中、市場における小型車のウエートが高まるとともに、小型車の低価格競争が激化している(2)環境・エネルギーをめぐる技術開発競争で欧米のメーカーの猛追を受けている(3)品質競争の面では韓国車の品質が向上し、彼我の差がほとんどなくなってきている――などの諸点を指摘。こうした環境認識、危機意識を前提として、同社では春季労使交渉を、単に賃金・賞与について議論する場であるにとどまらず、企業の中長期の競争力強化に向けた取り組みを労使で真剣に話し合う場と考えており、この点で労使は共通の認識を持っていると述べた。
労使交渉の諸テーマのうち、賃金について小澤氏は、(1)今後とも、ものづくりのベースは日本国内で維持するという考えから、400万台レベルの生産は国内で行う(2)国内の販売が160〜170万台レベルだとすれば250万台前後の車は日本から輸出しなければならず、輸出相手国の市場で競争力を有するものでなければならない(3)国際競争力をしっかりと確保するという観点から考えると、経営側としては、いささかなりとも競争力を弱めるような賃上げに対しては、慎重にならざるを得ない――ことを強調。賞与については、短期の業績が好調だった場合は、賞与に反映するのが基本であると述べる一方、その絶対水準の高さについては、慎重に見定める必要があるとの考えを示した。さらに労使交渉では、競争力確保の観点から、いかに職場の意欲や活力を高め、労使一丸となった職場をつくり上げていくかという意味で、働き方について労使が真剣に議論する必要があると語った。
小澤氏はまた、多様性を尊重する人事施策の取り組みにおいて重要となるテーマとして、女性、60歳以上の就労者、有期雇用契約者それぞれの働き方を挙げた。

労使で「人」をテーマに議論/河西氏

続いて登壇した日立製作所の河西氏は日立グループが昨年11月、新たに経営方針を策定し、「マーケット・インを貫き、利益の創出に徹する」という基本方針を掲げたことに触れ、そのために「FIV(税引後事業利益から資本コストを控除した経済的付加価値をベースとした日立独自の付加価値評価指標)に基づいた管理徹底による高収益経営」「安定的な高収益構造の構築」「高収益化に向けたグループ経営の進化」「協創によるイノベーションの創出」を打ち出して、2009年度までに連結営業利益率5%の達成などを図っていく考えであることを説明した。
続いて河西氏は、春季労使交渉においては、こうした日立グループの経営方針などを踏まえ、企業を取り巻く環境、今後の見通しなど、経営環境に関する認識を労使で共有した上で、人に関するさまざまなテーマを労使で議論していきたいと述べた。賃金改訂については、個人の賃金水準と、人件費コストとしての賃金総額の水準を区別して考えるべきことを強調。個人の賃金水準については、前年の水準にいくら積み上げるかという考え方ではなく、個人の実力・成果に応じた評価を行い、その結果に基づいてふさわしい賃金水準を決定すべきだとの考えを示した。また、賃金総額の水準については、マクロの視点からはGDPや物価の動向といった経済情勢との整合性を考え、ミクロの視点からは売上高や利益といった各企業の業績を勘案した支払い能力を基本として議論する必要があり、生産性の裏付けのない賃金は高コスト構造の原因となって、企業の競争力を損ねると述べた。
賞与については、短期業績の成果配分であることを踏まえ、各企業の業績に応じた水準の議論を行うことが基本であると指摘した。
また河西氏は、人に対する考え方、取り組みについては、オープン、チャレンジング、ダイバーシティの3つをキーワードにしていると語った。

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