日本経団連タイムス No.2849 (2007年3月1日)

「デジタル化・ネットワーク化時代における著作権法制の中長期的なあり方について(中間とりまとめ)」公表

−産業活性化へ複線化システム提案


日本経団連は2月20日、「デジタル化・ネットワーク化時代における著作権法制の中長期的なあり方について(中間とりまとめ)―産業活性化のための複線化システムの提案―」を公表した。

近年、デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、現行の著作権法の下では想定されていない事態が発生している。例えばデジタル化された著作物は、ネットワーク上を特定の媒体に固定されず、国境を越えて流通し、また、その過程において、利用者の積極的な関与によって著作物自体が変化していくことも多い。
現行の著作権法は、創作者の経済的・人格的利益の保護といったインセンティブを付与することによって、優れた著作物の創作を促し、ひいては文化の発展を促すことを基本的な理念としており、その前提となる枠組みとして、(1)創作者・供給者と利用者の区別が明確(2)内容が確定しており、その後の変化を予定していない(3)権利は媒体または流通経路に応じて付与される(4)権利付与は国ごとに行われている(5)権利侵害が限定的である――といった特徴を持っている。しかしながらネットワーク環境の出現によって、現行著作権法の理念、前提となる枠組みが崩れ、環境変化が起こっている。
例えばインターネット上で多くの人の知を結集することによって、新たな創作活動が促されており、この創作活動への参加者は、著作物の自由な利用や相互連携が産業や文化の発展につながるという従来とは違った理念の下に行動している。
また一方では、劣化しない違法な複製物がインターネットを通じて大規模に流通し、権利保護の実効性の確保が非常に困難となっており、コンテンツ産業の健全な発展を阻害するとともに、現行著作権法の理念の実現自体を揺るがしている。

権利保護と利活用のバランスを構築

今回の報告では、以上のようなデジタル化・ネットワーク化による環境変化、そして新しい理念の発生に対して、1つの理念ですべての著作物を扱うという従来の考え方では対応できないとの認識に立ち、従来のシステムに加えて、新たなシステムを整備し、複数システムによる権利保護と利活用促進の新たなバランスを構築し、産業の活性化や文化の発展を図ることを提案している。
複数システムの設計に当たっては、著作権法や不正競争防止法などの法制度を産業の活性化の観点から必要に応じて見直し、整備を行うとともに、それを補完するものとしての契約、技術的保護手段、ADR(裁判外紛争解決)、社会的啓発・教育などを組み合わせることが考えられる。
また、複数システムの設計に当たっては、例えば著作物を自由に利活用し合うことを主眼に置いたものや、円滑な利活用と実効的な保護による著作物の財産的価値実現に主眼を置いたものなどが考えられるが、その選択は権利者の意思に委ねられるようにすることが考えられる。

なお、複数システムを構築する上で、今後検討が必要な法制度上の論点として、(1)権利内容の多様化(2)権利保護の実効性の確保(3)技術の進歩に対応した権利制限規定のあり方(4)権利者明確化のための制度整備(5)国際的調和のとれた著作権制度の構築――などがある。
複数システムを考えるに当たっては、わが国だけが他国と異なる制度を採用することになってはあまり意味がない。産業界として、今回の報告の考え方について内外の理解を促すとともに、ベルヌ条約をはじめとする国際条約、内外のビジネスの状況などを踏まえ、権利保護と利活用のバランスのとれたデジタル化・ネットワーク化時代の著作権法制の実現に向けて、引き続き検討を行っていく予定である。

【産業第二本部開発担当】
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