日本経団連タイムス No.2854 (2007年4月5日)

第59回九州経済懇談会を開催

−「希望の国、地域づくりを目指して」テーマに


日本経団連(御手洗冨士夫会長)と九州経済連合会(九経連、鎌田迪貞会長)は3月15日、北九州市内のホテルで「第59回九州経済懇談会」を開催した。懇談会には、御手洗会長をはじめ宮原賢次副会長、勝俣恒久副会長、岡村正副会長、渡文明副会長、江頭邦雄副会長ら日本経団連首脳役員、九経連会員など210名が参加。「希望の国、地域づくりを目指して」を基本テーマに、九州経済の活性化や自律的発展に向けた取り組みなど、九州が抱える課題を中心に意見を交換した。また、同懇談会に先立って、同市内にある安川電機のロボット工場を視察。1990年に世界で初めてロボットがロボットをつくる工場として操業を開始した「モートマンセンタ」や、昨年からロボットの生産拠点として稼動を開始した新工場「モートマンステーション」を見学した。

開会あいさつした九経連の鎌田会長は九州の経済情勢を分析、(1)九州全域で工場建設や生産設備の増強投資が相次いでいる(2)特に自動車については九州が日本有数の生産拠点として成長を遂げている(3)システムLSIやハイテク家電関連のリーディングカンパニーも多数進出し、九州経済全体にハイテク化とイノベーションの波が広がり、特に一部では業種を超えたイノベーション連鎖が起きている――と述べた。その上で、今後もこのような域内でのイノベーション連鎖を断ち切ることがないように産業集積のさらなる機能強化を推進するとともに、イノベーション連鎖を新産業創出にまで高めていくことや農業分野のイノベーションを図ることも重要であるとの考えを示した。また鎌田会長は、九州の自律的発展のためにはアジアと連携した地域づくりという視点が欠かせないと指摘。道州制についても言及し、道州制の導入は真に自律的な経済圏の形成に向けて必要不可欠であり、九州地方知事会と地元経済界で構成する九州地域戦略会議において、昨年10月、道州制の導入が必要との答申をまとめたが、さらに同戦略会議において、2007年度早々にも道州制導入に向けた「九州モデル」を策定すべく第2次道州制検討委員会を立ち上げることにしていると述べた。

続いてあいさつした日本経団連の御手洗会長は、「九州には半導体などの先端分野をはじめ、高度な技術やノウハウを投入した鉄鋼や化学、自動車、精密機器などの製造拠点が集積している。業種の垣根を越えたハイテク化が波及し、域内の産業の高度化・高付加価値化の連鎖を生み出しつつある状況は、他地域からの注目を浴びている。こうした強みを活かし、引き続き技術革新や経営改革に取り組むことで、九州発のイノベーションを続々と生み育て、地域全体のさらなる発展の基盤を固めてほしい」と語った。
また、今年1月に発表した新ビジョン「希望の国、日本」の概要を紹介。同ビジョンで特に強調している道州制は、一定の人口、面積、産業の集積や大学などの知的拠点を備えた「広域経済圏」をつくることで、それぞれの地域が自律的に発展・成長していくことが可能となるという発想に基づくものであり、わが国の統治機構のあり方を根本から変革する究極の構造改革として、地域経済の自律と活性化につながると述べた。

■活動報告

第1部の活動報告では、日本経団連から、宮原副会長が、M&A法制全般の見直しを中心とした経済法制に関する取り組み、岡村副会長が、日本経済の持続的発展を支え、国民に心の豊かさをもたらす産業として重要性を増すコンテンツ産業の発展に向けた取り組み、渡副会長が、輸出入・港湾手続きをはじめ貿易諸制度の抜本的改革に向けた取り組みについてそれぞれ報告した。

一方、九経連からは安藤昭三副会長が「国土形成計画の策定とアジアとの交流」について報告。九経連では国土形成計画の策定について、今年夏に発足する九州の「広域地方計画協議会」に参画し、「九州のアジア・ゲートウェイ戦略」「辺境を先端に変える戦略」「知の連携拠点創造戦略」の3つの戦略を九州の広域地方計画に反映させるべく活動していくと説明した。また、アジアとの交流については、(1)九州、韓国、中国に囲まれた「環黄海地域」での実体経済の結びつきを踏まえ、九州発の日・中・韓間のパートナーシップの深化を図る(2)環黄海地域の枠組みをさらに東アジア全体の経済圏形成に拡げていく(3)アジアとの結びつきを強めていくために、人材の確保という点から、優秀な外国人人材の受け入れと支援体制の整備に努める。大分にある立命館アジア太平洋大学の人材育成への取り組みは好例である――との考えを示した。
次に木瀬照雄副会長が「地域産業の振興」として、(1)自動車・半導体産業などのリーディング産業の状況(2)ロボット産業やデジタル・コンテンツ産業など新産業の創出・育成(3)実効性ある産学官連携と知的財産保護への対応――について報告。「オール九州の産学官で構成する九州半導体イノベーション協議会を通じて一層の国際競争力強化を進めていく」「コンテンツ産業の育成を図るため、九州地域における有望分野などの調査を行い、課題の抽出や方策の検討を行う」「テーマ分野を絞ったより具体的な産学官連携の推進や、九州ワイドの垣根を越えたコーディネーターのネットワーク形成等についての検討、具体化を進めていく」など九経連の具体的な取り組みについて説明した。

九州が抱える課題で意見を交換

■自由討議

第2部の自由討議では、九経連から、(1)自律的な経済圏の形成や個性豊かで活力ある地域社会実現のために求められる地方制度改革推進と道州制の導入促進(大野芳雄副会長)(2)「東九州自動車道・九州新幹線など循環型高速交通ネットワークの早期完成と道路財源の確保」「アジア・ゲートウェイの役割を担う空港・港湾の整備拡充」「アジアとのネットワーク拡充と物流のシームレス化促進」といった交通基盤整備の推進(明石博義副会長)(3)EPA(経済連携協定)の推進等が図られる中での、九州地域の農業・食品産業の競争力強化に向けた対策(小栗宏夫副会長)(4)域内デジタルデバイド解消など情報通信基盤の整備やイノベーション連鎖を進める上からも不可欠な高度情報通信人材の育成(小椋敏勝理事)(5)九州の周遊型観光の魅力を活かした商品の提供促進や東アジアをターゲットとした海外からの誘客対策促進など九州観光推進への取り組み(村山紘一九州観光推進機構理事)(6)社会の絆を固くし、明るい日本の未来を構築していくために求められる教育の再生(廣瀬幸九州女性の会副会長)――などについて日本経団連の考え方や取り組みに関する質問があった。

これに対して日本経団連は、(1)「地域経営」の実践により、地域の活性化をもたらす道州制の導入を実現すべく、各地域の経済団体と連携して、広く世論を喚起し、国民の理解を深めていきたい(江頭副会長)(2)九州にはアジア・ゲートウェイの拠点としての役割が期待される。循環型ハイウェイの実現により、周遊型観光の増加や生産活動の活発化と雇用の創出、災害時の被災地への輸送の円滑化といった効果がもたらされよう(渡副会長)(3)競争力ある国内農業の構築とEPAの締結との両立を図るよう努めていきたい(宮原副会長)(4)高度なICT教育の実現を目指し、九州大学などと連携して、産学連携による専門コース開設に向けた準備を進めている(勝俣副会長)(5)広域的観光振興に向け、九州観光推進機構が先進的な取り組みを展開しているが、特に、中国、韓国、台湾、香港の4市場をターゲットにきめ細かな戦略を立てている点が、評価される(江頭副会長)(6)教育再生に向け引き続き取り組んでいくが、社会総掛かりで教育再生を進めていく上で、企業が協力できることは何かを各地域においても考えていただきたい(岡村副会長)――と応えた。

最後に懇談会を総括して御手洗会長は、「会長就任後、国内全地域の経済界の方と意見交換を行ったが、すべての地域から、道州制を導入し、地域のことは地域が権限と責任をもって決めることが豊かな地域づくりを進める上で非常に有効という考えを伺うことができた。九州には、自動車、半導体、環境、食品加工、エネルギーなどの分野で核となる企業があり、今後とも、アジアに近いという強みを最大限に活かした取り組みを積極的に進めることにより、豊かな九州経済圏をつくってほしい」との期待を述べた。

【総務本部総務担当】
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